ミクロヒストリーから照射する越境・葛藤と共生の動態に関する比較研究

代表

王 柳蘭(同志社大学グローバル地域文化学部・准教授)

共同研究員

飯田 玲子(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・特任助教)、王 柳蘭(同志社大学グローバル地域文化学部・准教授)、加藤 裕美(福井県立大学学術教養センター・准教授)、紺屋 あかり(お茶の水女子大学お茶の水女子大学全学教育システム改革推進本部・特任講師)、下條 尚志(静岡県立大学国際関係学研究科・助教)、瀬戸徐 映里奈(東京福祉大学国際交流センター・特任助教)、飛内 悠子(盛岡大学文学部社会学科・准教授)、中山 大将(京都大学東南アジア地域研究研究所・助教)、縄田 浩志(秋田大学大学院国際資源学研究科・教授)、林 英一(大阪経済法科大学・准教授)、藤本 透子(国立民族学博物館民族文化研究部・准教授)、村橋 勲(京都大学アジア・アフリカ研究研究科・日本学術振興会特別研究員PD)、山田 孝子(金沢星稜大学人文学部・教授)

期間

平成29年4月~平成31年3月

目的

移民・難民は国家制度が画する地理的空間を越えて移動するため、その現象はしばしば国家からみれば脅威、統制の対象であり、負のイメージが与えられてきた。他方、移民・難民の立場にたてば、越境行為には多様な社会的意味が付与された能動的行為でもある。本研究は、越境をめぐる分断・共生に着目し、包摂と排除の論理にもとづいて、移民をめぐる自他関係の相互作用の在り方を論じつつ、移民のミクロな実践の中に見出される自らの表象の在り方と戦略、社会的結合の諸相、民族関係の動態、宗教実践などを通して、地域の多民族化、多民族化した地域の再生に与える諸局面を地域別、民族や宗教の軸を通してみていく。とりわけ、ミクロなヒストリーと地域史の動態のなかで、マクロな潮流のなかで「小さくされた人びと」の声に寄り添った地域動態を明らかにする。同時に、多民族状況下において、移民・難民が地域に与えるインパクトを社会的側面のみならず生態環境等も考察にいれ、移民・難民のもつ地域との相互作用、回復力、レジリアンスという積極的な側面にも光を当てていく。

研究実績状況

2018年2月現在、計3回の研究会を実施した。本研究会では主として、アジア・アフリカ地域における移民・難民の生活世界と人々をめぐる越境の歴史的環境について、地域を横断してみられる普遍的な傾向としての「定数」と地域に固有な現象として立ち現れる「変数」を軸に、地域間比較の視点を重視した討論を行ってきた。第1回(2017年7月23日)は雲南系ムスリム移民社会の歴史的記憶(王)、ベトナム-カンボジア国境地帯の越境と現代史(下條)、北部ウガンダの南スーダン人の宗教と民族(飛内)、日本領樺太のエスニック・マイノリティ(中山)についての研究報告が行なわれた。第2回(2017年10月7日)は、家族史から見る南スーダン人の離散と連帯(村橋)、インドネシア人のマレーシアへの越境と現地家族の形成(加藤)である。第3回(2017年1月13日)は、インド・マハーラーシュトラ州の大衆芸能タマーシャーの担い手たちの生活世界(飯田)、在日ベトナム青年にとっての『本国』経験(瀬戸徐)による発表が行われた。
 今後の予定は以下である。①2018年3月6日に東京の在日チベット人支援団体の訪問、②2018年3月7日に東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所における写真展『地中海を渡る脱出』企画の参加、③2018年3月30日には難民・移民映画を素材にした討論を計画している。

研究成果の概要

本共同研究は、複数の国民国家、政治権力の緩衝地帯、境界地域となってきた地域やそこでの生活を経験した人々、多民族社会における越境者の歴史的経験のダイナミズムと地域社会への多面的インパクトを掘り下げ、一国史や帝国主義史観、支配的語りによる「他者観」を相対化することを目的としている。
研究成果は個人ベースによる論文執筆と学会発表が主たるものとなる。異なる地域を対象にする研究者の相互討論を軸に研究会を組み立てたことで、以下のように多角的な議論を進めることができた。
例えば、第1回の討論においては、ウガンダやベトナムでは難民保護のための難民キャンプが逆に保護対象とされる人々に移動の制限を課してしまい、経済的自立を抑制してしまっている状況などから、「難民」をめぐるイメージや期待される保護政策などに、国際社会、国際機関、現地政府、現地社会、当事者の間で大きな齟齬があることについて議論がなされた。第2回では、多文化主義や難民支援の枠組みのなかで想定される現象や前提とする概念に対して、ミクロヒストリーの研究がどのような新たな視点を提示することできるのかについて議論した。第3回では、土地を持たずに漂泊し、常に「越境」しつづける人々と、移動研究がこれまで考えてきた「越境」の考え方に関する議論も出た。すなわち、「越境」というものを単なる物理的な移動に留まらず、階層などの移動も含めたものとして捉えるべきかどうかについて議論が行われた。

公表実績

藤本透子 2017「中央アジアの人びとが経験した社会主義」『月刊みんぱく』41(12):6. 
林英一 2017「両陛下のベトナム訪問」『毎日新聞』6月13日付夕刊。
林英一 2017「ベトナム残留兵家族の来日」『毎日新聞』10月31日付夕刊。
飯田玲子 2018「新興中間層」、「インド都市部の朝の光景」インド文化事典編集委員会編『インド文化事典』丸善出版。
飯田玲子(2018年3月刊行予定)「南アジアのイスラーム」『大学生・社会人のためのイスラーム講座』ナカニシヤ出版。
加藤裕美 2017「サラワクのロングハウス社会におけるインドネシア人移住者との共住」マレーシア研究6: 71-85。
Kato, Y. 2017. Percepsions of Iban in the Sihan ethnoscape, Ngingit 9: 49-58. 2017年7月。
村橋勲 2017「テレビが作りだすリアリティとフィールドワークの可能性」椎野若菜、福井幸太郎編、『マスメディアとフィールドワーカー(FENICS100万人のフィールドワーカーシリーズ第6巻)』人文書院、pp. 41-61。
村橋勲(2018年3月刊行予定)「難民開発援助と可能性と限界――ウガンダにおける生計支援の事例から」太田至、湖中真哉、孫暁剛(編著)『地域研究からみた人道支援』、昭和堂。
村橋勲(2018年3月刊行予定)「難民の市民社会組織にみるローカルな生存戦略――ウガンダの南スーダン難民の事例」宮脇幸生(編著)『国家支配と民衆の力――エチオピアにおける国家・NGO・草の根社会』、大阪公立大学共同出版会。
中山大将 2017「樺太の中国人」華僑華人の事典編集委員会編『華僑華人の事典』丸善出版、pp.232-233。
中山大将 2017「なぜ〈数〉を問うのか?」浅野豊美、小倉紀蔵、西成彦編著『対話のために:「帝国の慰安婦」という問いをひらく』クレイン、pp.59-87。
王柳蘭 2017「神戸の華人キリスト教」、「北タイの雲南系ムスリム」華僑華人の事典編集委員会編『華僑華人の事典』丸善出版。
瀬戸徐映里奈 2017「食の調達実践にみる在日ベトナム人の社会関係利用:一世世代に着目して」ソシオロジ62(1)、pp.61-78。
瀬戸徐映里奈 2017「在日ベトナム人の菜園が創造する社会空間−−結節点としての農地」、コンタクト・ゾーン=Contact Zone」9、pp.198-223。
瀬戸徐映里奈 2017「在日ベトナム人の農地利用と地域社会」、農業と経済83(6)pp.48-49、 昭和堂。
下條尚志(2018年3月刊行予定)「ベトナム―カンボジア国境の越境移動をめぐるローカルな政治―冷戦終結後メコンデルタのクメール人越境者とベトナム国家」、『アジア・アフリカ言語文化研究』第95号。
飛内悠子(2018年3月刊行予定)「クク人と故郷カジョケジ:南北スーダンにおける人間の移住と場所の変容」『文化人類学』82巻4号。
Yamada, Takako, 2017 Creating Networks and Sharing Communications through Digital Media: A Survival Strategy of Tibetans in Japan. Kanazawa Seiryo University Bulletin of the Humanities 2(1): 1-11
Yamada, Takako, 2017. Shamanic Power as an Agent of Reconciling Communal Conflicts. Shaman, 25 (1-2)159-180..
Yamada, Takako, 2017 “Shamanism and Buddhism as Religions Expanding the Boundaries of Ethnicities and Spirituality” Books of Abstracts of International Conference on “Expanding Boundaries: Ethnicity, Materiality and Spirituality,” Vietnam Museum of Ethnology, Hanoi, 1-4 Dec.2017, pp. 112-113.
山田孝子 2018(印刷中)「在日チベット人社会の形成・維持と日本におけるチベット難民支援-1965年から2014年の展開をとおして-」『金沢星稜大学人文学研究』2(2)

[ 学会発表等 ]
Iida, Reiko. “Toward Writing about Popular Culture: A Case Study on Lāvanī in the State of Maharashtra, India” on 10th International Conference on International Convention of Asian Scholar (ICAS10), Chang Mai University, Thailand. July 22, 2017.
Iida, Reiko. “Cross-Border Circulation within the Indian Film Industry”, The 2nd Collaborative Symposium for Early Career Researchers on Thinking across Boundaries: The Fluidity of Asia, Africa and Beyond, School of Oriental and African Studies(SOAS) , University of London, Sep.18, 2017.
Konya, Akari. “‘Writing’ Cultural Image: A case study of Palau, Micronesian the West Pacific Islands”, Panel 254: Orality & Society: Writing non-literate culture, performance and memory in contemporary Asia and Pacific Islands, The 10th International Convention of Asia Scholars (ICAS10), Chiangmai, Thailand, 2017.
Konya, Akari. “Thinking about Globalization”, Palau Community College, Social Science class: Introduction to Cultural Anthropology, 2017.
紺屋あかり「パラオの詠唱をめぐる知識・財・身体の贈与と交換」『2016年度 日本オセアニア学会関東例会地区大会』お茶の水女子大学、2017。
紺屋あかり「補助金を贈与する現代パラオのローカル経済」京都大学分野横 断プラットフォーム構築アジア・太平洋海域世界縦横プロジェクト(研究大学 強化促進事業「百家争鳴」プログラム)「東南アジアとオセアニアをつなぐ: 熱帯海域世界の政治史と経済活動」京都大学、 2017。
紺屋あかり「パラオ口頭伝承の継承と教育をめぐる実践的共同研究」『琉球大学国際沖縄研究所共同研究合同報告会』琉球大学、2017。
紺屋あかり「ジュゴンの伝説と保護活動-ミクロネシア・パラオの事例から」 神戸大学学術Week『環境を守る物語の力-地域の伝承と開発-』神戸大学、2017。
Murahashi, Isao. “Reorganization of ‘Family’ and Diversification of Livelihoods of South Sudanese Refugees: The Case of Kiryandongo Refugee Settlement in Uganda”, In Family Transformation in Rapidly Developing Asia-Africa Societies Faced with Economic Disparity, Urbanization and Post-war. by JSPS Bilateral Joint Research Projects, ILCAA, Tokyo University of Foreign Studies(TUFS), 4th, Nov.2017.
村橋勲「コミュニティを再興/再考する-カクマ難民キャンプにおけるロピット人のCBO活動に関する試論」、第26回日本ナイル・エチオピア学会学術大会、富山大学(富山)、2017年4月16日。
村橋勲「難民開発援助と生政治―ウガンダの難民支援NGOの活動から」、第54回日本アフリカ学会学術大会、信州大学教育学部(長野)、2017年5月20日。
Shimojo, Hisashi. “Local Politics in National Border-Crossing between Southern Vietnam and Cambodia: Mobility in the Mekong Delta after the Cold War,” In the Consortium for Southeast Asian Studies in Asia (SEASIA) 2017, Chulalongkorn University, Thailand, December 2017.
Shimojo, Hisashi. “Migration as Survival Strategy in a Multi-Ethnic Village of the Mekong Delta since 1975” In 2017 Vietnam Update: The Politics of Life, Australian National University, Australia 2017.
Wang-Kanda, Liulan. “Border-crossing and belongs: Narratives and family experiences among Chinese Muslim Diaspora in Thailand”, International Workshop on “Migration and East Asian Societies: Comparative Perspectives”, organized by The Max Weber Foundation and Hong Kong Baptist University, German Institute for Japanese Studies of the Max Weber Foundation, Tokyo, July 28, 2017.
Wang-Kanda, Liulan. “Shaping a “New Home” as Chinese Christian in Kobe”, The 11th International Society for the Study of Chinese Overseas, November 18, 2017.
王 柳蘭 2017「神戸華人社会におけるキリスト受容の葛藤と展開」日本文化人類学会第51回研究大会、2017年5月27日、神戸大学。
王 柳蘭 2017「自己を語り、故郷をつなぐ―雲南系パンロン・ムスリム女性のライフヒストリーから」、2017年7月8日、日本タイ学会、法政大学。
Yamada, Takako. “Leadership and Community Maintenance: Learning a Lesson from Tibetans’ Struggle for Constructing a Communal Space in Toronto” International Conference on “Community Maintenance in Periphery”, International Institute for Okinawan Studies, University of the Ryukyus, December 16~17, 2017.
Yamada, Takako. “Reappraisal of the Revitalization of Sakha Shamanism: What roles did shamanism play in the early 1990s?” Presented at Session 51, XII Congress of Anthropology and Ethnology of Russia, July 3-6, 2017, Izhevsk, Russia.
Yamada, Takako. “Shamanism and Buddhism as Religions Expanding the Boundaries of Ethnicities and Spirituality” International Conference on “Expanding Boundaries: Ethnicity, Materiality, and Spirituality”, International Conference of ISARS (International Society for Academic Shamanistic Research), Vietnam Museum of Ethnology, Hanoi, December 1~4, 2017.
山田孝子 2017「流動化する世界とコミュニケーションの共有性」日本文化人類学会第51回研究大会、2017年5月27日、神戸大。
山田孝子 2017「デジタル・メディア活用によるコミュニケーションの共有性:在日チベット人社会のコミュニティ維持にむけて」日本文化人類学会第51回研究大会、2017年5月27日、神戸大学。

研究成果公表計画, 今後の展開等

 最終年度にあたる次年度はワークショップあるいは学会における分科会などを企画して発表を行い、本研究会の成果を論文集としてまとめる予定である(現在交渉中)。

 

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