アジアとラテンアメリカの資源政策についての地域間比較研究

代表

岡田 勇(名古屋大学国際開発研究科・准教授)

共同研究員

岡田 勇(名古屋大学国際開発研究科・准教授)、村上 勇介(京都大学東南アジア地域研究研究所・教授)、ジュエルロード・ネムシン(ライデン大学政治学科・助教)、坂口 安紀(アジア経済研究所地域研究センター・主任調査研究員)

期間

2020年4月~2021年3月(1年間)

目的

グローバル化が進んだ21世紀初頭、世界各国は異なった産業構造を発達させ、それにより異なった資源政策を必要としてきた。グローバル経済からみると、中国を始め製造業に牽引されて目覚ましい経済発展を遂げた東アジア・東南アジア諸国では国内の企業・消費者によるエネルギー需要が高まった一方で、エネルギーや金属資源、食糧といった一次産品の輸出が盛んになったラテンアメリカ諸国では資源採掘にまつわる外資への優遇と規制が政策争点となった。しかし、そうしたグローバル経済における役割分担に基づいた相違点がある一方で、アジアにもエネルギーや金属資源の重要な輸出国が存在し、ラテンアメリカでもエネルギー消費についての政策が修正を迫られたことは確かである。さらには、国営企業を中心とした産業運営もまた、両地域に共通する政策争点となってきた。
本研究の目的は、このような相違性と共通性を持つアジアとラテンアメリカのエネルギーおよび鉱物資源政策を比較し、21世紀初頭までに両地域で経験されてきた政策課題を明らかにすることにある。

研究実績状況

本年度は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて当初の予定通りの活動を行うことができなかった。5月に予定されていた米プリンストン大学での国際シンポジウムおよび6〜8月に計画していた欧州でのワークショップは、いずれも各地域での感染拡大の結果、延期せざるを得なかった。欧州またはオンラインでのワークショップは2021年度に計画延期になっている。他方で、2021年2月に開催される国際社会学会フォーラム(ISA Forum)での研究発表2件が予定されている(当初は2020年7月に開催予定であったものが延期になった)。
 当初の予定通りにはいかなかったとはいえ、全く活動しなかったわけではない。2020年4月より3週間ごとに研究代表者は共同研究員であるJewellord Nem Singhライデン大学助教とオンライン・ミーティングを行い、アジアとラテンアメリカの資源政策に関する文献を集中的に読み込みながら議論を重ねてきた。その成果は、国際社会学会フォーラム及び日本比較政治学会年報などで発表される予定である。またさらなる研究成果を生み出すため、共同研究員の村上勇介京都大学東南アジア地域研究研究所教授とともにペルーの社会紛争データベースのアップデートも進めた。

研究成果の概要

 今年度、本研究は理論枠組みを集中的に検討する作業を行った。具体的には、2020年4月〜2021年2月まで共同研究者と共に以下の理論的命題についてディスカッションし、整理した。

・各国の主要な政治アクターの間で中長期的な資源政策の合意は見られるか。あるいは激しく争われてきたか。
・もし中長期的な合意が見られる場合、各国の長期的な開発目標との関係は何か。ここで言う開発目標とは、国家主導の産業育成を追求するアジアモデルや、ラテンアメリカの輸入代替工業化などを指す。
・国家の資源政策や資源採掘プロジェクトに対して抗議が頻発する場合、その規定因は何か。
・「資源の呪い」論が国家制度の役割を強調するのに対して、いわゆる制度の質が低い場合に何が補完的な要因となるのか。

 これらの論点を議論した結果、以下の理論枠組みについて整理した。
(1) 資源開発は、利益と不利益をもたらすために、それをめぐる政治闘争が起きる。
(2) 長期的な開発目標として、国家主導の開発モデルを維持してきたケースと20世紀末より市場開放政策をとったケースでは、政治闘争のパターンに違いが見られる。これが第1の共通要因と考えられる。
(3) 第2の共通要因は、国家能力(state capacity)であり、とりわけ政党や議会といったフォーマルな政治代表制度と裁判所のような紛争仲裁制度に対する信頼が資源開発によって増幅する利益と不利益をめぐる争いがどのように顕在化するかを規定する。
(4) 第3の共通要因は、政治連合(political coalition)であり、中央や地方の政治家が政治的サバイバルのために作り出す支持調達のネットワークを意味する。どのような政治連合が築かれるかは、資源政策の方向性を形作る。政治家は、資源採掘から得られる利益の分配に積極的に介入し、どのように不利益の補償に用いるかを取り持つことで合意を作る場合もあるが、資源採掘時代に反対する社会勢力を糾合して政治連合を作ることもある。

さらに、上記の理論枠組みを経験的に検証するために、ペルーにおける抗議行動についてのデータベースを作成した。

公表実績

Isamu Okada
・ Okada, Isamu. 2020. “Improving Public Policy for Survival: Lessons from Opposition-Led Subnational Governments in Bolivia” Latin America Ronshu 54, pp.15-43.
・ 岡田勇. 2021. 「比較の視座からのベネズエラの1999年憲法改正」住田育法・牛島万編『混迷するベネズエラ』明石書店
・ Jewellord Nem Singh (co-authored with Kate Macdonald). 2020. “Resource Governance and Norm Domestication in the Developing World” Environmental Policy and Governance 30(5)
・ Jewellord Nem Singh (co-authored with Alvin Camba). 2020. “The Role of Domestic Policy Coalitions in Extractive Industries Governance: Disentangling the Politics of ‘Responsible Mining’ in the Philippines” Environmental Policy and Governance 30(5)
・ 村上勇介. 2021. 「比較のなかのベネズエラ―ほかのラテンアメリカ諸国との共通性と相違点─」住田育法・牛島万編『混迷するベネズエラ』明石書店
・ 村上勇介. 2020. 「継続するネオリベラリズムと政党政治─低成長期ペルーの事例─」仙石学編『転換期のポピュリズム?』スラブ・ユーラシア研究報告集13
・ 森下明子. 2020. 「書評:佐藤仁 著『反転する環境国家―「持続可能性」の罠をこえて』」アジア研究66(4)
・ 森下明子. 2020. 「第6章 2019年国会議員の特徴と民主化後20年の国会議員の変化―二大勢力化しつつある経済界関係者と地方政界出身者―」『2019年インドネシアの選挙―深まる社会の分断とジョコウィの再選-』アジア経済研究所
・ Morishita, Akiko. 2020. “The Military and Indonesian State Power: Contending Perspectives from the Students of Generation 98” Khoo Boo Teik and Jafar Suryomenggolo (eds.) States and Societies in Motion. pp.144-183. NIAS Press

研究成果公表計画, 今後の展開等

 本研究の成果は、以下において発表する予定がある。
・2021年2月の国際社会学会フォーラム(ISA Forum)
・2021年7月刊行の日本比較政治学会年報
 さらに、ペルーの抗議行動データを基にした国内事例の計量分析を行い、学術誌に投稿する予定であるほか、理論枠組みに基づいて国際ワークショップを企画し、関心を持つ研究者とともに国際ジャーナルに特集企画を投稿することも検討している。

 

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