地域研究方法論プロジェクト(2010-2015)

今日の世界において、地域研究の意義はますます大きくなっています。それは、冷戦が終わり、従来のように西側陣営と東側陣営という安易な区分で世界の出来事を理解することが難しくなり、世界の国々を内在的に理解することが必要となっているためです。また、グローバル化によって国境を越えたヒトやモノや情報の移動が増大し、移民やその家族の移住先での法的立場の問題や、感染症や災害などの国境を越えたリスクへの対応といった問題が生じているのに対し、従来はそれぞれの国内で対応・解決が図られてきたこれらの問題に国の枠を越えて協力して対応することが求められているためです。

 このような現代世界の状況のもと、特定の国や地域について調査研究を深めていればよかった約20年前までの地域研究とは異なり、今日の地域研究は、特定地域の調査研究を深めるとともに、研究対象地域や分野の垣根を越えて地域研究者どうしが協力連携することが強く求められています。また、研究と社会とを切り離すのではなく、社会の現場で意味のある形で地域研究の研究成果を発信するため、外交、企業活動、防災・人道支援などの各分野で地域研究のエンドユーザである官公庁、民間企業、市民団体などの実務者との協力連携も求められています。

 また、地域研究方法論プロジェクトでは、地域研究者が社会的存在である側面に目を向けて、それぞれの研究者が置かれた環境が異なることに積極的な意義を見出すような地域研究のあり方を考えます。
 これまで学術研究の方法論では、常勤の研究者が勤務時間中に何をどうするかにばかり目が向けられ、個々の研究者が置かれた環境の違いにはほとんど目が向けられてきませんでした。しかし、研究者のあり方が多様になっている今日、研究者の社会における存在の側面を考慮せずに研究の方法について考えることは難しくなっています。

 一人ひとりの地域研究者は、どのようにして自分を取り巻く社会に自身を位置づけて研究を続けているのか。有期の職を重ねながら研究を続けている人。出産・育児をしながら研究を続ける人。研究対象の地域社会で家族や職を得て暮らしながら研究する人。官公庁や民間企業での経験を積んで、それを研究にまとめて仕事に活かそうとする人。このような人たちは、いずれも今の日本の社会状況や研究環境では多数派でないため、研究を続けるうえで不都合を感じることも多いと思います。制度や研究環境の問題点を改善することはもちろん必要ですが、それと同時に、そのような制約と折り合いをつけようと工夫することが研究に積極的な影響を与えることにも目を向けてもよいように思います。

 地域研究方法論プロジェクトでは、地域研究において研究者は決して研究対象や研究課題から切り離された無色透明な存在ではなく、個々の地域研究者が置かれた環境が研究課題や研究内容に大きく影響を及ぼしていること、そしてそこにこそ地域研究の味わいがあるのではないかと考えています。
 地域研究方法論プロジェクトでは、プロジェクト全体として「大学院で教える/学ぶ地域研究」「地域研究者のキャリアパス」「異業種・異分野との連携」の3つのテーマに重点的に取り組んでいます。また、それ以外のテーマについても、本センターの公募共同研究に採択された共同研究を通じて取り組んでいます。

 地域研究方法論プロジェクトについての具体的な活動内容については以下のページをご覧ください。
   http://www.cias.kyoto-u.ac.jp/~yama/areastudies/