東南アジアの脱植民地化におけるイスラムと政治

代表

坪井 祐司(名桜大学国際学群・上級准教授)

共同研究員

坪井 祐司(名桜大学国際学群・上級准教授)、野中 葉(慶應義塾大学総合政策学部・専任講師)、山口 元樹(東洋文庫・研究員)、山本 博之(京都大学東南アジア地域研究研究所・准教授)

期間

2019年4月~2020年3月

目的

東南アジアにおけるイスラムと国家および政治との関係に着目し、戦後の脱植民地化の過程を再検討する。イスラムと国家の関係性は、現在世界中で大きな研究関心を集めている。西洋近代的な国家制度とイスラムは、ときに対立し、ときに相互に影響しあいながら、各地の政治の場でせめぎ合ってきた。インドネシア、マレーシアといったイスラム教徒が人口の多数を占める東南アジア諸国も例外ではない。本研究課題では、第二次大戦後から1970年代にかけての時期を東南アジアにおける脱植民地化/国民国家建設期ととらえ、新たな国家建設に際して、イスラムにもとづく国家や政治を志向する勢力がどのような思想や運動を行ったかを分析する。国境を越えたマレー・インドネシア語の言論活動やそれを担う人的ネットワークに着目し、マレーシア・インドネシアそれぞれを専門とする研究者の共同研究により、各地の状況の連動性を明らかにする。この作業を通じて、国家単位ではない東南アジアのムスリムの政治・社会史として描きなおす。

研究実績状況

[2019年度]
 昨年度までの共同研究において、各共同研究員が専門にもとづくテーマを定めて研究を進めており、論文集の出版を念頭に、各自が論文をまとめる作業を行った。7月14日に研究会を開催し、論文の草稿を全員で検討するとともに、特に序論の内容の議論を集中的に行った。
 提出された論文は、以下のとおりである(共同研究員でない著者の論文を含む)。
山本博之「序論」
山口元樹「国民国家独立期におけるインドネシアとマレー・イスラーム世界:ジャウィ復活論をめぐるマラヤとの関係」
西芳実「越境の国民文学者アブドゥッラー・フサイン:植民地期混成社会における読書の愉悦」
篠崎香織「1950~60年代のシンガポールにおける華語文芸世界とマレー語文芸世界との交差」
山本博之「『カラム』と東南アジアのムスリム同胞団」
坪井祐司「シンガポールのイスラム知識人からみたマラヤの脱植民地化」
光成歩「脱植民地化期マレー・イスラム世界のムスリム女性論争:シンガポールにおける強制婚論争の分析」
野中葉「イスラムのダアワを通じたインドネシアとマレーシアの交流:インドネシア人活動家イマドゥディン・アブドゥルラヒムの活動を通じて」

研究成果の概要

[2019年度]
 1950~1970年代における東南アジア各地のイスラム勢力に焦点をあて、その連動性を明らかにした。従来、イスラムの政治運動はマラヤ、シンガポール、インドネシアという国家ごとに分析され、イスラム勢力は世俗的な民族主義の政府による国家建設が進むなかで広範な支持が得られなかったとされてきた。本研究では、マレー・インドネシア語の相互参照の可能性に注目し、出版物や、国境をまたいで活動した当事者の記録を利用し、政治的境界を越えたムスリムの関係性を明らかにした。
彼らはシンガポールなどの都市を中心とする移動のネットワークを持ち、直接的な関係を持っていただけではなく、隣国の状況を観察・参照し、それを自国での政治・言論活動のなかに取りいれており、間接的な連動性を持っていた。山口が示すように、公用語・文字をめぐる議論はインドネシア・マラヤの両地域の脱植民地化のなかで展開され、山本、坪井が示すように、シンガポールのアラブ人による出版活動も両地域の政治運動をつないだ。野中は、1970年代以降の「イスラム化」における人脈のつながりを明らかにした。
こうした研究成果は、国ごとになされてきた研究の見直しを迫るだけではなく、植民地時代、独立および国家建設の時代、1970年代以降の開発の時代という時代区分の再検討を迫るものでもあり、東南アジアのマレー・ムスリムの包括的な戦後史を描く可能性をひらくものである。

公表実績

[2019年度]
 「研究実施状況」で示した原稿をまとめて、論文集『マレー・イスラム世界における総合誌と政治(仮)』(山本博之、坪井祐司編)として、京都大学東南アジア地域研究研究所の叢書出版に応募した。

研究成果公表計画, 今後の展開等

[2019年度]
応募中の論文集の査読結果を受けて、改稿のうえで出版を目指す。

 

あわせて読みたい