報告:第1回ミクロヒストリーから照射する越境・葛藤と共生の動態に関する比較研究研究会

タイトル

第1回「ミクロヒストリーから照射する越境・葛藤の共生の動態に関する比較研究」研究会

ユニット名

ミクロヒストリーから照射する越境・葛藤の共生の動態に関する比較研究

代表者

王柳蘭(同志社大学)

開催日

2018年4月21日(土)

開催地

同志社大学今出川キャンパス良心館

概要

林英一「「歴史戦」前夜:ジャカルタ日系人団体の事例研究」
本報告は、戦争にともなう移動によって、様々な事情によって現地にとどまることになった兵士たちが、残留からおよそ30年を経ってから、どのように自分たちの帰属意識を再帰的に獲得していったのかを、インドネシアを例に論じた。具体的には、海外日系人大会で、インドネシア日系人代表を派遣してきた、互助組織の変遷を、役員の発言や日本側での受け止められ方を通じて詳細に検討した。それによれば、当初老兵たちの老後改善運動として出発した同組織は、日本政府への軍人恩給獲得運動の過程で、日本側の「協力者」を接近し、それによって「右傾化」していった。その後、篤志家からの大口寄付と日本の出入国管理法の改正によって、日系人団体、福祉団体としての顔を兼ね備えたが、世代交代に「失敗」し、再び「右傾化」していったことを示した。質疑応答では、個人や集団がなぜ歴史を必要とするのかといった議論に発展し、多くの教示と示唆を得ることができ、非常に有意義であった。

 

山田孝子「亡命チベット人社会における帰属意識の再構築:在日チベット人の定住過程から」
 「越境」を余儀なくされた難民として亡命チベット人を事例に、彼らの帰属意識の再構築・維持と定住過程におけるホスト社会との共生の動態を取り上げた。亡命後60年を迎える2018年現在、亡命チベット人は約30カ国の世界各地に暮らすなかで、チベット人、カムの人、デゲの人、カナダ人というように、亡命後強化されたチベット人意識に加え、地方区分、ローカルな地域下位区分、ホスト国など、3重~4重の帰属意識を使い分けながら生きる現状がある。在日チベット人の定住過程においても、帰属意識やチベット人同士の「共同性」の再構築、日本人の支援の輪など、情報共有をとおした協働・共生の動態が存在する。このような亡命チベット人の事例発表に対し、難民状況発生時の「国」といった政治体制の問題と帰属意識の有り方、ホスト国の政治状況に影響される生存戦略、難民2世、3世という世代間の帰属意識の違い、「帰還」の現実性などについて比較の視点から議論が進んだ。

 

 このほか、成果発表に向けての討議を行なった。

 

林英一(大阪経済法科大学)、山田孝子(金沢星稜大学)

 

「ミクロヒストリーから照射する越境・葛藤の共生の動態に関する比較研究」第1回研究会

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