社会主義を経たイスラーム地域のジェンダー・家族・モダニティ―中東イスラーム地域研究との架橋をめざして

代表

和﨑 聖日(中部大学人文学部・講師)

共同研究員

帯谷 知可(京都大学東南アジア地域研究研究所・准教授)、磯貝 真澄(京都外国語大学外国語学部・非常勤講師)、菊田 遙(北海道大学・スラブ・ユーラシア研究センター・助教)、宗野 ふもと(筑波大学・人文社会系・特任研究員)、中村 朋美(関西大学東西学術研究所・非常勤研究員)、藤本 透子(国立民族学博物館民族文化研究部・准教授)、嶺崎 寛子(愛知教育大学教育学部・准教授)、村上 薫(アジア経済研究所地域研究センター・中東研究グループ・主任研究員)、和﨑 聖日(中部大学人文学部・講師)、李 眞恵(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・博士課程)

期間

平成29年4月~平成31年3月

目的

社会主義的近代化のプロセスを経た旧ソ連イスラーム地域(中央アジア、コーカサス、沿ヴォルガ地域など)では、一見、社会主義的男女平等と女性解放が進展し、世俗主義と脱イスラーム化が徹底されたようでありながら、ジェンダーや家族といった領域では価値観や規範の根本的変革はきわめて難しく、皮相的に留まったことが先行研究ですでに明らかになっている。さらにソ連解体後のナショナリズムの高まりとイスラーム復興の多様な形での進行によって、伝統回帰と同時にイスラーム的文脈での新たな現象(例えば伝統的スタイルでない女性のヴェール着用の増加など)も生じている。そこで本研究では、こうしたポスト・ソ連世俗主義国家(その多くは権威主義国家である)でイスラーム復興が進展する状況下におけるジェンダー・家族規範の複雑な実態と変容を、その近現代の歴史的背景にも目配りしながら、読み解き明らかにすること、さらにそれを1990年代以降新たな視点により進展している中東ジェンダー研究の議論と接合し、ジェンダー・家族・モダニティの観点から、多元化・多極化する現代世界に旧ソ連イスラーム地域をどのように位置づけるべきかを検討することを目的とする。

研究実績状況

 2017年度はメンバー各自の研究トピックと本研究の目的とのすり合わせと国内・国際研究ネットワークの拡大を意図して、下記のような活動を行った。
[ 研究会 ]
2017年11月25日(稲盛財団記念館小会議室Ⅰ)メンバー各自の研究トピックの確認とブレーンストーミング

[ 共催研究会 ]
① 2017年10月14日(早稲田大学早稲田キャンパス)「現代ムスリム社会における風紀・暴力・統治についての多角的研究」公開研究会(早稲田大学イスラーム地域研究機構平成29年度共同研究) 
② 2017年11月14日(稲盛財団記念館213)Special Seminar: Frontiers of Gender Studies in Asia (京都大学東南アジア地域研究研究所男女共同参画推進委員会主催)

[ CIRASユーラシア・セミナー ]
① 2017年10月23日(稲盛財団記念館213)マラ・グバイドゥリナ(カザフ国立大学)「中央アジアの越境する水資源問題」(ロシア語)
② 2018年1月29日(稲盛財団記念館213)アズィズ・マリコフ(ウズベキスタン歴史学研究所)「中央アジアの『聖なる家系』―トランスローカリティとアイデンティティのバリエーション」(英語)
③ 2018年2月9日(稲盛財団記念館213)カリマン・ウメトバエヴァ(東京芸術大学)「ソ連崩壊後のクルグズ共和国とカザフスタンにおけるアクン技芸」(日本語)

[ 公開ワークショップ ]
2018年2月10日(稲盛財団記念館213)ワークショップ「装いと規範」
 新学術領域研究「グローバル秩序の溶解と新たな危機を超えて―関係性中心の融合型人文社会科学の確立」(「グローバル関係学」、研究代表者:酒井啓子、千葉大学教授)B01班「規範とアイデンティティ」(研究代表者:酒井啓子)との共同で開催。
報告:後藤絵美(東京大学)「ニカーブをまとうまで―現代イスラームにおける『自己選択』の諸相」
帯谷知可(CIRAS)「ルモルとヒジョブの境界―社会主義的世俗主義を経たウズベスタンのイスラーム・ヴェール問題」
野中葉(慶應大学)「インドネシアにおけるハラール化粧品の隆盛と女性たちの美意識」
コメント:粕谷元(日本大学)、和崎聖日(中部大学)
司会:村上薫(アジア経済研究所)

[ ディスカッション・ペーパーの刊行 ]
上記ワークショップの成果をCIRASディスカッション・ペーパーとして2018年3月に刊行した。

研究成果の概要

 2017年度は、ジェンダー・家族に関連する20世紀的なモダニティとは何であったかを検証し、その結果として旧社会主義圏を含むイスラーム地域で現在生じているグローバルな意味を持つ現象について比較を行うことをめざして、メンバー個々の関心と本研究の成果として想定している論文集編纂を視野に入れながら、まずは「女性解放と男女平等をめぐる言説の歴史的展開」「世俗主義とイスラーム法」「移民とジェンダー・家族規範の変容」という3つのトピックを暫定的に設定し、議論をスタートさせた。19世紀ヨーロッパのイスラーム世界に対する植民地主義的視線は社会主義体制においても変形・強化されながら継続し、現在の権威主義体制でも継承されている側面があること、社会主義のもとでイスラーム法の影響力は国家の法体系からは完全に排除されたが、実態としては人々の間に慣習として残ったものと忘却されたものがあること、2000年代の中央アジアなどでは出稼ぎの増加(男性の不在)に伴い、家族やジェンダーをめぐる規範が一部変化し始めたことなどが明らかになった。また、旧社会主義圏では中東や東南アジアなどに比して近年のジェンダー学の最先端で扱われるトピック(例えばLGBTや生殖医療など)が現地社会において公に議論される余地がほとんどなく、従って研究対象になりにくくなっている実態も認識された。さらに、新学術領域研究「グローバル関係学」との共同のもとに開催したワークショップ「装いと規範」を通じて、上記3つのトピックを横断しながら現代世界の課題に切り込むテーマ設定として女性の装いを取り上げることが有効ではないかとの示唆を得た。

公表実績

[ 出版 ]
磯貝真澄「ロシアのウラマーとイスラーム教育網に関する試論―19世紀前半まで」、『史林』101(1): 116-149、2018年3月刊行予定。
帯谷知可・後藤絵美編『装いと規範』(CIRASディスカッション・ペーパー)、2018年3月刊行予定。。
村上勇介・帯谷知可編『秩序の砂塵化を超えて―環太平洋パラダイムの可能性』京都大学学術出版会、2017年。
帯谷知可「イスラーム観の違いを克服する―ポスト社会主義、イスラーム復興、権威主義の交錯するウズベキスタンの課題」村上勇介・帯谷知可編『秩序の砂塵化を超えて―環太平洋パラダイムの可能性』京都大学学術出版会、2017年、105-135頁。
帯谷知可「イスラーム・ヴェール今昔」「映画」「建国とナショナリズムの神話」「スクヴェール」「ソ連体制下のウズベキスタンの成立」「多民族国家ウズベキスタン」「ファッション」「歴史的英雄を語り、描く」帯谷知可編『ウズベキスタンを知るための61章』明石書店、2018年3月刊行予定。
菊田悠「職人の世界」「人々のなかのイスラーム」帯谷知可編『ウズベキスタンを知るための61章』明石書店、2018年3月刊行予定。
宗野ふもと「恋愛と結婚」「バザール」帯谷知可編『ウズベキスタンを知るための61章』明石書店、2018年3月刊行予定。
中村朋美「トルキスタン総督府の成立とその統治」帯谷知可編『ウズベキスタンを知るための61章』明石書店、2018年3月刊行予定。
藤本透子「カザフの子育て」『季刊民族学』162: 67-74、2017年。
村上薫「名誉解釈の多様化と暴力―イスタンブルの移住者社会の日常生活をめぐって」『文化人類学』82(3): 328-345、2017年。
李眞恵「ペレストロイカ期におけるコリョ・サラムのアイデンティティ形成」『イスラーム世界研究』10: 177-191、2017年。
和崎聖日「今も息づくイスラーム法」「家族とジェンダー」「祝祭」「農村の1年」帯谷知可編『ウズベキスタンを知るための61章』明石書店、2018年3月刊行予定。

[ 公開ワークショップ ]
2018年2月10日(土)ワークショップ「装いと規範」(詳細は上記の通り)

[ 学会発表 ]
磯貝真澄「ロシア・ムスリムによるイスラーム的学識の継承」2017年度史学研究会例会「学びのネットワーク」、2017年4月15日。
磯貝真澄「19世紀末~20世紀初頭のホラズムにおける権利放棄と婚姻・離婚」第16回中央アジア古文書研究セミナー、2018年3月18日。
磯貝真澄「ヴォルガ・ウラル地域テュルク系ムスリム家族の法社会史研究の試み―19世紀末の婚姻簿から」2017年度日本中央アジア学会年次大会、2018年3月24日(予定)。
和崎聖日「旧ソ連中央アジアのスーフィズムと病気治療―アフマド・ヤサヴィーの現代的意義に寄せて」2017年度日本中央アジア学会年次大会 2018年3月25日(予定)。

研究成果公表計画, 今後の展開等

 本研究では研究成果として論文集の刊行を目指しており、研究期間が終了する平成31年3月までにメンバー各自が原稿執筆を終えることを目標としている。そのため、設定している「女性解放と男女平等をめぐる言説の歴史的展開」「世俗主義とイスラーム法」「移民とジェンダー・家族規範の変容」という3つのトピックにそった形で、社会主義を経験したイスラーム地域とそれ以外のイスラーム地域の事例を各メンバーが提示しつつ、それらが持つグローバルな意味や相互の連関・比較などについて議論を深め、執筆に反映させることに重点を置いた研究会を2回実施する。
 同時にCIRASユーラシア・セミナーの開催、CIRAS環太平洋研究ハブや新学術領域研究「グローバル関係学」との共同と研究ネットワークの拡大に努め、それをベースに科学研究費の申請を行い、研究の発展を図りたい。また、そのネットワークを活用して、今年度開催したワークショップ「装いと規範」の続編を開催し、その成果をディスカッション・ペーパーとして刊行する予定である。

 

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