パフォーマンスによる文化の交錯-演劇教育を活用した地域研究の展開

代表

飯塚 宜子(京都大学東南アジア地域研究研究所 ・連携研究員)

共同研究員

飯塚 宜子(京都大学東南アジア地域研究研究所 ・連携研究員)、園田 浩司(京都大学アフリカ地域研究資料センター・特任研究員)、大石 高典(東京外国語大学大学院総合国際学研究院・准教授)、田中 文菜(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・大学院生)、山口 未花子(北海道大学文学研究院・准教授)、柳澤 雅之(京都大学東南アジア地域研究研究所・准教授)、矢野原 佑史(京都大学アフリカ地域研究資料センター・特任研究員)

期間

2020年4月~2021年3月(1年間)

目的

 本研究では、パフォーマンスという表象形態が、いかに異なる文化を持つ人々を分断せずに交錯させ、地域を超えた相互行為や価値の創出を可能にし得るかを実証的に明らかにする。具体的には第一に、カナダ先住民クリンギットおよびアフリカ狩猟採集民バカ・ピグミーについて、これまで実施してきた「パフォーマンスによる表象」が、日本の学習者に何をもたらしたかを、会話分析により明らかにする。第二に、動画や双方向通信(ZOOM等)を使用して現地住民や現地関係者と、日本の実施者(研究者)が会する機会を設け、日本の教室でどのようなパフォーマンスや表象が為され、何がもたらされたかを共有する。表象の意図を現地関係者に明示しながら、彼らの受けとめ方や、彼らがより適切と考える表象や手法についてインタビューを行い、新たな表象を共創し、インタビューの分析を行い成果報告としてまとめる。最後に共創した表象によるプログラムデザインを、再び日本の市民や児童と共有する。このようなプロセスを通して、地域を超えた相互行為や価値の創出がいかに可能かを明らかにしていく。

研究実績状況

COVID-19の影響下、社会的にオンライン学習ニーズが高まっている状況のもと、アフリカのバカ・ピグミー、エジプトやサウジアラビアのイスラーム、カナダ先住民クリンギット、古代のアンデス先住民をめぐる2時間のパフォーマンスによるエスノグラフィーを、ZOOMによるオンラインで2回ずつ実施した。オンライン用のシナリオを作成し、小学生と保護者の参加者を公募し、研究者と俳優が協働したZOOMによる配信を計8回行った。その結果、背景の効果的な切り替えにより、対面とは異なる没入感が生まれ、直接接触に代わり、物語性や創造性を生かすワークを開発した。またシナリオや解説のあり方について多くの議論がなされた。第二にこれまでの対面ワークショップの評価を会話分析等によりすすめた。パフォーマンスがどう協働的理解をもたらし、学習者による他者のジブンゴト化が展開していったか、国際理解教育の視点、またフィールド学習の視点から論文をまとめた。

研究成果の概要

本実践はステイホーム等による家庭での閉塞的状況に応答した、学校教育とは異なるオンライン学習を提供するという社会貢献になった。東京、愛媛、冨山、島根など全国から、またオーストリアやバリ島からの参加者など、142名の学習者(スタッフ含め194名)のが参加した。学習者からは、これまでの文化理解のための議論を子どもたち自身の言葉で言いなおしているような言語化も見られた。本研究は本や論文に「記録」されるものごとを、学習者の「記憶」に転換する実践としても位置付けられる。
儀礼や演劇などの行動の再現は、人間の最も初源的な学びのかたちである。本実践で扱ったクリンギット先住民は「物語」や「パフォーマンス」によって次世代に世界観を継承するが、それは動物・土地・人間・先祖・歴史が一体となるようなホリスティックな学びといえる。細分的な部分認識から総合への回帰を目指すホリスティックな地域理解は、分析的な科学思考に重心を置く近代教育と異なる学び方であり、「地域における学び」の方法論の再構築によって生成する可能性がある。そしてその方法論は、これからの学びの多様化に対応する実践に結びつくだろう。ホリスティックな地域理解に向けて、地域社会で継承された物語性や、身体性によるパフォーマンス、協働という方法論を今後も探求していきたい。

公表実績

【論文】
・飯塚宜子、園田浩二、田中文菜、大石高典 2020「教室にフィールドが立ち上がる─アフリカ狩猟採集社会を題材とする演劇手法を用いたワークショップ」『文化人類学』85(2):325-335 (査読あり)
・園田浩司、飯塚宜子 2021「文化の協働的理解――アフリカ狩猟採集社会の象狩りを題材とした即興劇の創作」『国際理解教育』27 (2021年6月刊行予定、査読あり、採択決定)
【書籍(分担執筆)】
・飯塚宜子 2021 「教室で再現するフィールド―パフォーマンスによる北米先住民カスカの民族誌」箕曲在弘、二文字屋脩、小西公大編、『人類学者たちのフィールド教育』第8章、pp.159-180、ナカニシヤ出版(2021年3月刊行予定)
【抄録原稿】
・飯塚宜子「「物語の知」の学び―カナダ先住民クリンギットに学ぶオンライン学習プログラム開発と実践」日本ソーシャル・イノベーション学会第2回年次大会抄録、学会ウエブサイト掲載、2020年11月1日
【口頭発表】
・飯塚宜子「人や環境とともに物語を紡ぐ」第4回「地域・実践・研究トークセッション~オンライン連続企画」国際理解教育学会地域論プロジェクト、2020年11月25日、オンライン
・飯塚宜子「「物語の知」の学び―カナダ先住民クリンギットに学ぶオンライン学習プログラム開発と実践」日本ソーシャル・イノベーション学会第2回年次大会、研究実践ルームA「学習プログラムの挑戦」2020年11月1日、オンライン
【オンラインによる協働パフォーマンス・エスノグラフィー】
『京都で世界を旅しよう2020 オンライン地球たんけんたい⑨』
① 「ゾウのいる森で遊ぶぞう!」(2回公演)飯塚宜子、大石高典、園田浩司、田中文菜、矢野原佑史、弓井茉那 京都大学東南アジア地域研究研究所稲盛財団記念館セミナー室よりZOOM配信、 2020年11月22日
② 「思いやり社会のイスラーム」(2回公演)飯塚宜子、長岡慎介、園田浩司、弓井茉奈、田中文菜、矢野原祐史、渡辺美帆子、京都大学東南アジア地域研究研究所東棟会議室よりZOOM配信、2020年12月5日
③ 「動物になってみよう!」(2回公演)飯塚宜子、山口未花子、園田浩司、弓井茉奈、矢野原祐史、田中文菜、山口惠子、京都大学東南アジア地域研究研究所稲盛財団記念館セミナー室よりZOOM配信、 2020年12月20日
④ 「アンデスの世界・神殿のひみつ」(2回公演)飯塚宜子、関雄二、園田浩司、弓井茉奈、矢野原祐史、渡辺美帆子、リモートZOOM配信、2021年1月23日
【メディア出演】
・飯塚宜子「ラジオカーリポート」ま~ぶる!竹内弘一のズキュ~ン、KBS京都ラジオ、マナラボ 環境と平和の学びデザインについて生中継、2020年12月8日放送

研究成果公表計画, 今後の展開等

① 今年度の実践はショートムービーにまとめ、実践研究のプラットフォームである「マナラボ 環境と平和の学びデザイン」のHPなどにアップロードする予定である。
② ショートムービー等を活用し、クリンギット先住民社会等に、プログラム創作のプロセスでの議論や、日本の学習者による学びなどを報告し、還元し、今後の展開をはかる。
③ 今年度の実践の分析を行い論文にまとめる。また多様な地域プログラムを比較し串刺して考察する問いを提起していく。

 

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