西洋音楽の地域情報学的分析―主題の通時性と共時性

代表

河瀬 彰宏(同志社大学文化情報学部・助教)

共同研究員

河瀬 彰宏(同志社大学文化情報学部・助教)、柳澤 雅之(京都大学東南アジア地域研究研究所・准教授)、吉野 巌(北海道教育大学教育学部札幌校・准教授)玉谷 充(島根大学学術研究院理工学系・助教)、福田 宏 (成城大学法学部・准教授)、尾城奈緒子(同志社大学大学院文化情報学研究科・博士後期課程)、矢向 正人(九州大学大学院芸術工学研究院・教授)

期間

2020年4月~2021年3月(1年間)

目的

 本研究の目的は、西洋音楽の主旋律に対して地域情報学的分析を実施し、各地域・各時代の特徴を計量的な観点から明らかにすることである。近年は,Georges and Nguyen(2019)に代表されるような、作曲家の生没年代、出身地、作曲様式などのメタ情報に着目して作曲家間の関係性を工学的なアプローチから探る研究が展開されている。しかし、このアプローチは、作曲家の二次情報にのみ着目した場合には、時代や地域を隔たる作曲家間の影響関係を把握することができない問題点があった。本研究課題では,作曲家自身が生み出した作品の主題そのものを直接分析することによって、各時代・各地域の特徴を計量的な観点から明らかにしていく。具体的には、2019年度の研究課題においてデータ整備を完了させた“A Dictionary of Musical Themes”(Barlow and Morgenstern 1975, 1983)を用いた作曲家間の比較分析を実施する。その結果を、統計科学、情報学、心理学、音楽学、政治学、地域研究などの多分野にわたるメンバーが集う研究会を通して多角的に検証し、西洋音楽の各時代・各地域の特徴を明らかにしていく。

研究実績状況

2020年度は、COVID-19の影響により研究実施が芳しくない。これまでのデータ処理では、Patel and Daniele(2003)などの先行研究を踏まえて、作曲者の出身国・生没年・作曲年代・学派をリズムの指標から判別する方針を検討していた。しかし,分析手法を見直し、特定の作曲家を対象とした学派・創作年代による特徴の差異を抽出する分析に着手した。具体的には、ベートーヴェンの弦楽四重奏による年代区分詳細について、計量的分析による時代差を抽出する可能性を示すことができた。詳細については、研究成果の概要に記した。

研究成果の概要

2020年12月現在得られている成果は、次の3点である:(1)本研究課題では,A Dictionary of Musical Themes(Barlow and Morgenstern 1975, 1983)に掲載された全作曲家の約10,000曲の主題のデータ化作業を完了させている。(2)基礎データに対して,作曲者の出身国・生没年・作曲年代・学派などの背景要因に基づく通時的・共時的な関係性を客観的に示す統計的手法を検証したこと。具体的には旋律の音価を特徴量とする離散型の分布を連続型の分布に変換することで、分類精度が向上することを確認した。(3)前述の楽曲データの一部を用いた比較分析により、計量的分析による時代差を抽出する可能性を示すことができた。分析事例として,古典派からロマン派にかけて活躍したベートーヴェンを対象の創作様式を分類する旋律の特徴量を機械学習によって明らかにした。具体的には,「前期」「中期」「後期」といった、音楽学者の間で見解が一致しない曖昧な時代区分を精緻に区分する変数として、リズムの要素よりも音高や和声の使用傾向が影響することを明らかにすることができた。

公表実績

• 三木大輔・河瀬彰宏:「Lv.Beethovenの作曲様式における区分基準の解明」、(日本分類学会第39回大会(於同志社大学))。
• Miki, D. and Kawase, A.: “Clarification of boundaries and criteria for periodization in Beethoven’s career,” Japanese Association for Digital Humanities Conference 2020: JADH2020, オンライン開催.Proceedings of JADH 2020 Conference, pp.60-64. Short Paper.

研究成果公表計画, 今後の展開等

2020年12月現在までに得られている成果を国際論文誌に投稿中である。また、現在得られている成果を作曲家の国籍区分・時代区分・学派区分へ拡張するための方針を検討する研究会をオンライン形式で実施する計画がある。2019年度までは,Patel and Daniele(2003),VanHandel and Song(2010),Daniele(2016),Condit-Schultz(2019)などの先行研究を踏まえ、作曲者の出身国・生没年・作曲年代・学派などの背景要因に基づく通時的・共時的な関係性を示す方針を模索していた。しかし、2020年度に実施した解析内容とその成果を踏まえ、着目する楽曲の特徴量(変数)を軌道修正する。

 

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