東南アジア大陸山地部における長期的生業動態とデータベース化

代表

広田 勲(岐阜大学応用生物科学部・助教)

共同研究員

広田 勲 (岐阜大学応用生物科学部・助教)、柳澤 雅之(京都大学東南アジア地域研究研究所・准教授)、Cahyo Wisnu Rubiyanto(岐阜大学連合農学研究科・大学院博士後期課程)

期間

2020年4月~2021年3月(1年間)

目的

本研究は、昨年度の継続研究にあたる。先行研究や申請者がこれまで行ってきた研究からは、東南アジア大陸山地部における生業は、自然環境に依存し不安定になりがちなため、農業を中心としつつも林産物採取、家畜飼育、漁労、狩猟等の複合的な活動が組み合わさることで、安定化が図られてきたことがわかっている。一方、昨年度の研究で実施した、約150年前以後を対象にした文献調査から、自然環境や農業に加え、複合的な生業の組み合わせ方も時代によって大きく変化し、一見「伝統的」にみえる生業システムも近年形成されてきた可能性があることがわかってきた。昨年度は、こうした約150年間の変遷に関する概要を把握した。またより期間を限定し、仏領インドシナにおける重要文献であるPavieらの1879年~1895年の探検記録の分析とデータベース化を行い、着実なデータとして蓄積してきた。そこで本年度は、データベース化をさらに進めるとともに、より時代を下った20世紀前半に焦点を当てて文献調査および情報の地図化を試み、本地域の複合生業の長期にわたる変遷を明らかにすることを目的とする。また昨年度一部実施した、実地での古老への聞き取り調査を他地点で実施し文献の情報を補完する。

研究実績状況

本年度は、Pavieらによって記録された探検記録のデータベース化を行った。また、記録に登場する地名については別にリスト化し、約1万5千点を登録することができた。中規模以上の都市、町、村については座標を記録し、現在の地名との比較を可能にした。今後はこれらのリストに、探検記録から得られた情報を紐づける予定である。また、明治以降から戦時中までの東南アジア大陸山地部に関する日本語の文献調査を行っており、現在も継続中である。また、メンバーで研究会を1回実施し、CIRAS Discussion Paper Seriesに本年度の研究成果を発表することを確認した。以上の活動を行っている一方、申請時に予定していた海外渡航計画は、コロナ禍のため実施することができなかった。これついては、文献調査に係る活動を拡大して対応している。

研究成果の概要

本年度の活動では、Pavie Missionで記録、発行され、英語で翻訳されてWhite Lotusから発行されている地図集に記載されている全ての地名の入力を完了した。のべ約15000地点の入力が完了し、当時の測量の情報に基づいて、各地点のおよその位置を示す座標を記録し、また山、川、村落、都市といった属性情報を全ての地点情報に付加した。また、それぞれの地図において、中規模以上の村落や都市を抽出し、地図表で座標を計測して整理した。また、Pavie Missionの本文の記録中に出現する地名を同様に抽出し、座標を計測しリスト化した。現在719地点を記録している。
 さらに本研究は、継続してPavie Mission中の、環境、農業、生業に関する記載を抽出して、テキスト化を行っている。断片的ではあるものの、情報が蓄積されつつある。これらの情報のうち、Pavie Mission Volume 1については、CIRAS Discussion Paper Seriesで発表を行う予定である。
 Pavie Mission以外にも、戦前の日本で発行された東南アジア大陸山地部に関係する資料を収集し、文献調査を進めている。この成果の一部については、すでに出版され公開されているものの、継続して研究活動を継続していきたい。
 また、1900年から1950年ほどまでの資料に関しては、時間の制約等から、資料は収集しつつあるものの進捗が芳しくない。この資料の分析についても今後の課題としたい。

公表実績

・出版
広田勲(2020)明治の日本男児が体当たりで挑んだ東南アジア探検:岩本千綱著「シャム・ラオス・安南 三国探検実記」BIOSTORY 34: 107.
広田勲(2020)東南アジアの焼畑農業とタケの広域的関係性について.竹 138: 17-20.
広田勲(2021)農耕空間と親和的な「野生」植物のドメスティケーション ―ラオスの焼畑とタケ.卯田宗平編『野生性と人類の論理―ポスト・ドメスティケーションを捉える4つの思考』(印刷中)

・公開シンポジウム
広田勲(2020)人びとの暮らしと焼畑-日本文化の多様性を探る:コメント.国立民族学博物館・五木村共済企画『佐々木高明の見た焼畑-五木村から世界へ-』公開セミナー第1回 2020年10月18日.
広田勲(2020)東南アジアにおける稲作の生態.第23回TOYAMA植物フォーラム「イネとお米と日本酒と」 2020年10月4日.

研究成果公表計画, 今後の展開等

研究成果は、上に記した通りPavie Missionの記録を一部整理し、CIRAS Discussion Paper Seriesで公表する予定である。また焼畑農業の近年の変遷、特にここ20年ほどのインフラ整備に伴う生業や農業の変化については、現在論文を執筆しており、今年度あるいは来年度はじめには論文投稿を行う予定である。Pavie Missionの活動や、日本人が東南アジア大陸部について記載した戦前、戦時中の情報を引き続き整理し、次年度のCIRAS Discussion Paper Seriesで続編を出版したい。

 

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