ユーラシア国境域の自然環境と境域社会の生活戦略

代表

地田 徹朗(名古屋外国語大学世界共生学部・准教授)

共同研究員

地田 徹朗(名古屋外国語大学世界共生学部・准教授)、浅田 晴久(奈良女子大学研究院人文科学系・准教授)、花松 泰倫(九州国際大学法学部・准教授)、柳澤 雅之(京都大学東南アジア地域研究研究所・准教授)

期間

2020年4月~2021年3月(1年間)

目的

 本研究は、多様なディシプリンを背景とする研究者が、ユーラシア各地の「境界」と境域の「環境」および「社会」がいかに変容してきたのか、そのプロセスと内容及び相互関係について学際的・分野横断的な研究・議論を行うことを目的とする。中でも、ユーラシア各地の物理的境界(国境)と自然的境界(河川や山など)、境域社会に影響を及ぼす様々な地理的スケールの「ずれ」に着目し、境域社会にとってその「ずれ」がどのような意味をもっているのか、また、その「ずれ」を意識しつつ境域社会がどのような生活戦略を立てているのかということに着目する。本研究は、全体としては学問分野としての「境界研究」に立脚するが、メンバーそれぞれのディシプリンを生かしたフィールド調査の成果に基づき、既存理論を批判的に検討するという方向性をもつ。「タコツボ的」な地域研究を超越し、「境界・環境・社会」をめぐるユーラシアというスケールでの問題の共通性と各フィールドの位相的関係について包括的な知見を得ることを目指す。

研究実績状況

世界的な新型コロナウイルスの流行の中で、海外調査を実施できないという問題は大きなものであったが、メンバーは過去の調査結果(地田:中央アジア・アラル海流域、浅田:インド・アッサム、花松:中露・日韓国境域、柳澤:ベトナム・中国国境域)に基づいてセミナー及びディスカッションペーパー執筆の形での成果公表に向けた準備を進めている。それに向けたオンライン・ミーティングを2020年9月29日に実施した。そこでは、メンバー各自の研究の進捗状況について確認し、2020年1月に、公開でのセミナー(コロナ禍の状況が許せば対面形式、許さなければオンライン)の実施と、メンバーである柳澤雅之を通じてCIRAS Discussion Paperの刊行補助に申請することについて合意し、後者は10月に実際に申請を行った。2020年12月現在、日本国内でのコロナ禍の状況が悪化の一途を辿っていることもあり、成果公表のセミナーはオンラインで行うこととなった。そして、オンライン・セミナーは、無資金で実施が可能なため、本プロジェクトの資金は、プロジェクトの進捗に必要な衛星画像(インド・ナガランド地域)の購入に充てることとした。

研究成果の概要

2021年1月24日に公開形式でのオンライン・セミナーを実施し、メンバー4人(浅田、地田、花松、柳澤)とメンバー外1名(渡邊三津子:インド・ナガランド)が研究報告を行い、その後、総合討論を行った。各報告者が、各自のフィールドの自然的・物理的・社会的境界の関係性とその変容について論じつつ、総合討論では以下のような論点が出された。
・冷戦終焉後、ユーラシア各地で境界の可視化(物質化)が起きている。境域の人びとも、多孔性を利用する不可視な境界よりも、可視化された境界をいかに利用するかということに生活戦略が変わってきている。
・国家や大国の影響をすり抜けるような境域社会での生活戦略が存在する一方で、ソ連や中国といった大国による境域社会への影響は避けて通れない。マルチスケールな主体による境域社会への影響の比較が必要である。
・自然環境(山・川・海など)に沿って引かれた境界に社会・政治が乗っかっているがゆえに、緩く(多孔性、あるいは透過性が高く)なりがちな境域がある一方で、社会的境界と物理的境界を一致させようとするような(つまり、ウェストファリア的な)境域もあり、そのような場合、自然的境界とはずれやすい。境界・境域の性質のパターンがあるのではないか。
・自然的境界というのは「資源の境界」と読み直しもできる。それと物理的境界(行政境界)との関係性をどう捉えるか。社会・経済的な要素も含めた上での自然的境界の意味について考える必要がある。
このような指摘を踏まえた上で、地田・柳澤の共編で、ディスカッションペーパーの執筆と刊行を行った。

公表実績

2021年1月20日、本プロジェクトの研究成果について本研究課題と同名のオンライン・セミナーを実施した。そこでの成果に基づいて、CIRAS Discussion Paper No. 103『ユーラシア国境域の自然環境と境域社会の生活戦略』を2021年3月に刊行した。研究代表者の地田は、本研究プロジェクトの成果公表の一環として、『国際政治』誌に論文を1本掲載し、柳澤は編著の執筆を行った、花松は英文での共著書に関連する論文を発表した。

研究成果公表計画, 今後の展開等

前述のとおり、1月24日に公開形式のセミナーで本プロジェクトの研究成果の発表を行い、その後、CIRAS Discussion Paperの刊行を行った。その後の展開については、世界的な新型コロナウイルスの流行が次年度中に収束するとは到底考えられないので、日本の国境地域に絞る形で、メンバー合同でフィールドワークの実施を行い、本プロジェクトの後継とすることを検討しており、2021年4月に新規のCIRASセンター共同研究課題に応募した。

 

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