コミュニティ林業からみた東南アジアの政治経済変動と自然資源管理

代表

倉島 孝行(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・特任准教授)

共同研究員

倉島 孝行(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・特任准教授)、柳澤 雅之(京都大学東南アジア地域研究研究所・准教授)、竹田 晋也(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・教授)、葉山 アツコ(久留米大学経済学部・教授)

期間

2020年4月~2021年3月(1年間)

目的

 コミュニティ林業(以下、CF)が熱帯林管理政策の準主役となって20年が過ぎた。本研究の目的はタイ、ミャンマー、カンボジア、ベトナム、フィリピンのCFの各現状と差違の背景を、各国の政治経済変動やCFをめぐる国際政策・援助動向との相互作用(不作用)に求め、解明することである。すなわち、農山村での換金作物栽培の拡大や社会資本の変容、官僚主義の存続といった遍在事柄を含みつつ、各国のCFを規定している後景マクロ構造をも意識的に読み取り、説明に接合することで各特徴を描こうとする。
準主役化後のCF関連の国際比較研究の典型は、国際的に加速した制度的な当為性と各国制度との乖離を指摘し、乖離を批判するものである。だが、この国際的な制度潮流を重視する研究は近年、東南アジア地域で広く進んだ民主化と脱民主化、市場経済化など、国家体制に関わる変動の影響を逆に見えづらくしている可能性がある。本研究では各国の自然資源管理を、各国の政治経済的な構造変化の文脈とも照らし合せ、比較・解明する。

研究実績状況

2020年9月にメンバー全員で研究会議を開いた。代表者が「グローバルとナショナルを後景構造とし、ローカルなCF利用・管理を研究する-「地域研究」的比較研究のための1方法論-」と題する発表を行った。さらに、それを受けてグローバル・レベルでCFがどのような動きを経て、国際社会からどう支援されてきたのか、またそれらの動き・支援を踏まえると、各国のCFの歴史と現状はどう捉えられるのか、メンバー間で情報共有・議論を行った。
 2021年1月にメンバー代表とメンバー2名参加の研究会議を開いた。代表は「ナショナルとグローバルを後景構造とし、ローカルなCF利用・管理を比較研究する方法―Sustainable Livelihood Approachの応用可能性―」と題する発表を行った。メンバー2名はそれぞれミャンマー・バゴー山地のカレン領域での土地利用史と、フィリピンでの森林政策史、特に非マルコス化政策の展開、さらには2者間関係を軸とする農山村社会構造とその資源管理への影響等について発表した。また、この2名は以上のようなそれぞれのフィールドでの知見から代表者の方法論に対し、問題提起を行った。具体的には時間的な変化等を如何に比較研究の方法論の中に組み込むのかといった点や、そもそも社会資本がほとんど存在しない農山村社会でどう資源管理がなされるのかという点に、どのようにアプローチできるのかといったものである。

研究成果の概要

方法論に関しては関連の既存研究を広くレヴューした上で、拡張型Institutional Analysis and Development FrameworkとSustainable Livelihood Approachの比較CF地域研究への応用可能性についてそれぞれ明らかにした。
 また、カンボジアで行ったフィールド調査の成果を研究論文としてまとめ、受理された。その論文の概要は以下である。「カンボジアのコンポントム州の事例をもとに、集約管理型コミュニティ林業(以下、CF)導入・普及の試みが発展途上国の台地・丘陵地帯で直面しうる問題と、その現実的な対策について解明・論述した。具体的には一地方内の複数のCF区域と各周辺域の土地利用動態、それらの差違の要因、以上の点から汲み取れる施策上の示唆点を記した。カンボジアでは大規模森林伐採権制度停止後、国土の11%をCF域とする方針が出された。だが、森林維持群と耕地拡大群という、好対照なCF区域が狭い範囲内に出現していた。特に後者には政府の新たな土地コンセッション発行に基づくゴム園の拡大と、農民による商品農作物栽培地の拡大とが直接・間接に影響していた。以上の対照的なCF区域出現の背景として、村ごとで異なった余剰可耕地の大小と、新参者の耕地化の動きが重要だった。そこで今後、森林維持群を増やすためには、1)CF区域の取捨選択に当たり、CF以外の土地利用政策と農林業の動向、それらに由来する土地需要の変化を踏まえた、中期的で広範な分析に基づく判断と、2)CF区域での新参者の耕地化に、元からいる村人らが追随しないようにする効果的な支援が肝要だと言えた」。

公表実績

倉島孝行、松浦俊也、日野貴文、神崎護、キム・ソベン「カンボジアにおける集約型住民林業区の土地利用動態と要因分析からの教訓―台地・丘陵地帯のゴム園と小規模畑作地拡大域を事例として―」『森林研究』81. 京都大学フィールド科学教育センター (印刷中)

研究成果公表計画, 今後の展開等

2021年9月に開催した研究会議の内容・議論を踏まえ、代表者が科研費申請書案を作成し、現在、本課題メンバー全員で科研費に応募中である。採択されれば、本共同利用・共同研究の後継課題として、本格的な現地調査なども行いつつ、本課題を発展させる計画である。

 

あわせて読みたい