秩序再編の地域連関

代表

村上 勇介(京都大学東南アジア地域研究研究所・教授)

共同研究員

帯谷 知可(京都大学東南アジア地域研究研究所・准教授)、Wil de Jong(京都大学東南アジア地域研究研究所・教授)、村上 勇介(京都大学東南アジア地域研究研究所・教授)

期間

平成28年4月~平成31年3月

目的

21世紀の10年代後半を迎える今日、ますますはっきりとしてきているのは、21世紀世界における秩序について確実な見通しを持つことが困難だということである。前世紀終わりの冷戦終結後、アメリカ合衆国の一極支配の下で進んだグローバル化により「フラット化」するかに見えた世界は、同国のつまづきや中国をはじめとする新興諸国の台頭、市場経済の拡大による格差の拡大、社会の不安定化と非民主主義的な政治の独自性を高めるローカルな動きなど、様々な「グローカル化」の共振によって、「フラット化しない世界」となっている。そうした状況のなかから新たに編み直される21世紀世界の秩序はどういうものであろうか。こうした問いに答えることは容易ではないが、本研究は、社会(個人、集団など)、国家、地域・世界のいずれのレベルでも進行している秩序再編の過程を統合的に研究することを縦糸に、世界の複数の地域を比較する地域間比較や地域間の連関を分析することを横糸にして、21世紀世界の秩序を考察する手掛かりを探求する。

研究実績状況

[ 平成28年度 ]
個別共同研究ユニットの活動や成果を国際研究集会の開催をつうじて公にすること、ならびに成果の刊行の準備活動の2つを主に実施した。また、本研究の分析の観点でこれまで力を入れてこなかった国際関係について研究活動を開始する準備を行った。
 最初の国際研究集会は4つを開催した。そのうちの3つは経済発展と政治社会変動に関してである。

“Kobe Seminar of East Asian Network of Latin American Studies”
Date: January 7th, 2017, Saturday
Venue: Conference Room, Research Institute for Economics and Business Administration, Kobe University,
Presentation:
“A Comparative Survey of Mexican and Chinese Revolutions.” Dong Jingsheng (Peking University)
“Understanding Non-Tariff Barriers for Trade Facilitation between Korea and Latin America.” Jae-Sung Kwak (Kyung Hee University)
“Development of Fresh Fruit and Vegetable Export Industry in Peru.” Tatsuya Shimizu (IDE-JETRO)
“Daughter, Wife or Mother: Typology of Female Presidents and Its Implication on Gender Politics in Korea and Latin America.” Yun-Joo Park (Keimyung Universit) & Sang-Hyun Yi (Chon-Buk National University)
“The Transformation of Urbanization Models in Latin America since the late 20th Century.” Han Qi, Nankai University
“PT Government Revisited: Transformation of Government-Party Relationship and the Significance of the Government Change in Brazil.” Shuichiro Masukata (Kanda University of International Studies)

Conferencia internacional “Economía y política de América Latina en la segunda mitad de la década de 2010: coyuntura actual y perspectivas para el futuro” (「ラテンアメリカ政治経済のいま─現状と今後の展望」)
Fechas/ Dates: 8 y 9 de enero de 2016/ January 8 and 9, 2016
Lugar del evento/ Venue: Middle-sized Conference Room (3r. piso/ 3rd. floor), Inarmori Center, Kyoto University
Presentación/ Presentation:
“Quo Vadis, Latin American Economies?” João Carlos Ferraz (Instituto de Economia, Universidade Federal do Rio de Janeiro)
“Peripherality, Inequality and Economic Development in Latin American countries.” Nobuaki Hamaguchi and Yoshimichi Murakami (Kobe University)
“China’s Agro Engagement with the Latin America and the Caribbean.” Guo Jie (Peking University)
“China-LAC infrastructural Cooperation: Opportunities and Challenges.” Wang Ping (Nankai University)
“The Travail of Latin American Democracy in the 21st Century.” Marcelo Cavarozzi (Universidad Nacional de San Martín)
“From Limited Government to Democratic Accountability: Social Accountability revisited.” Enrique Peruzzotti (Universidad Torcuato Di Tella)
“Leveling the Playing Field?: A Qualitative Analysis of Presidential Actions Curtailing Media Freedom in Latin America.” Marisa Kellam (Waseda University)
“Poverty, Clientelism, and Democratic Accountability in Mexico.” Yuriko Takahashi (Waseda University)
“The Perfect Storm: Presidential Impeachment and the Rule of Law in Brazil.” Marcus Andre de Melo (Universidade Federal de Pernambuco)
“How Strong Is Evo Morales?: The Patterns of Political Support in Bolivia.” Isamu Okada (Nagoya University)
“La política peruana de la década de 2010: proceso electoral de 2016 y perspectivas para el futuro.” Yusuke Murakami (Kyoto University)

Conference: “Comparing Policy Agendas in Emerging Economies: Growth Strategy, Re-distribution and Social Security System in East Asia, Latin America and East Europe-Russia”
Date: March 21st 2017, Tuesday
Venue: Rakuyu Hall, Kyoto University
Presentation:
“Peripherality, Inequality and Economic Development in Latin American countries.” Yoshimichi Murakami (Kobe University)
“Economic Growth and Sustainable Development Across East Asia.” Ulrich Volz (SOAS University of London)
“The Determinants of Economic Crisis and Recovery in Transition Economies: A Large Meta-Analysis.” Ichiro Iwasaki (Hitotsubashi University)
“Nueva tendencia de la política social de América Latina en el siglo 21/ New Tendencies of Latin America’s Social Policies in the 21st. Century.” Rubén Lo Vuolo (Interdisciplinary Center for Public Policy Studies-CIEPP, Argentina)
“El estado de bienestar en Brasil/ Welfare in Brasil.” Ryohei Konta (Institute of Developing Economies-IDE -JETRO)
“El estado de bienestar en México/ Welfare in Mexico.” Keiko Hata (Waseda University)
“A Study of the Health Impact of Grandparenting on Thai Elderly.” Touchanun Komonpaisam (Chulalongkorn University)
“Labor Policy, Women Labor in Former East Germany Area.” Sahoko Satogami (Ph.D candidate, Kyoto University)

また、気候変動と地域社会に関するワークショップをドイツで開催した。

Workshop: “Latin America, Africa and Asia linkages in a Globalized Humanosphere”
Dates: February 20-24, 2017
Venue: Albert-Ludwigs-Universität Freiburg, Freiburg im Breisgau, Germany
Presentaion:
“Survival of the Fittest, Differentiation in Livelihood Resilience: Bolivian Indigenous Forest Communities in the Wake of an Extreme Weather Event.” Tina Bauer (Wageningen University)
“Centrifugation of European Legality Frontiers in Global Timber Supply Chains.” Wil de Jong (Kyoto University)
“Alternatives to Communal Land Titles for Community-based Conservation and REDD+.” Marieke van der Zon (Wageningen University)
“From Forest Frontier to Forest Landscape Arena: Forest Development Aspirations, Discourse in Amazonia.” Wil de Jong and Pablo Pacheco (Center for International Forestry Research-CIFOR)
“From Control to Support: A Comparative Analysis of How Brazil Addressed Policies toward Community Forestry.” Mayte Benicio Rizek (Albert-Ludwigs University)
“Looking for a Recipe to Make Environmental Discourse Policy Relevant: An Analysis of Buen Vivir in Bolivia.” Adriana Ballón Ossio (Albert-Ludwigs University Freiburg)
“Surviving in Times of Crisis: A Case Study of Three Villages in Rural Zimbabwe.” Locardia Shayamunda (Albert-Ludwigs University Freiburg)

 以上のほか、ラテンアメリカと環太平洋との関係に関する成果ならびに環太平洋地域の秩序変動に関する成果の出版の準備会合(執筆者会合)をそれぞれ2回実施した(前者9月と1月、後者10月と12月)。また、国際関係にかんする計画の準備会合を2回開催した(11月と2月)

[ 平成29年度 ]
個別共同研究ユニットの活動や成果を国際研究集会の開催をつうじて公にすること、ならびに成果の刊行の準備活動の2つを主に実施した。また、本研究の分析の観点でこれまで力を入れてこなかった国際関係について研究活動を開始した。

ラテンアメリカ政経学会第54回全国大会シンポジウム「今世紀におけるラテンアメリカ・東アジア関係」
2017年11月3日、於:京都大学稲盛財団記念館
「ラテンアメリカ・中国関係の諸課題」
江时学(上海大学)
「ペルーの東アジアとの関係─現状と展望」
カルロス・アキノ(ペルー・国立サンマルコス大学)
「日本のグローバル経済戦略とラテンアメリカ」
浜口伸明(神戸大学)

秩序再編セミナー
2017年11月27日、於:京都大学稲盛財団記念館
「グローバル秩序をめぐり対立する視点」
マイケル・スミス(ヴァージニア大学)

東アジア秩序セミナー
2017年11月28日、於:京都大学稲盛財団記念館
「将来の多極的アジア─オーストラリアと日本への含意」
マイケル・ウェズリー(国立オーストラリア大学)

ユーラシアセミナー
2017年10月23日、於:京都大学稲盛財団記念館
「中央アジアの越境する水資源問題」
マラ・グバイドゥリナ(カザフ国立大学教授)
2018年1月29日、於:京都大学稲盛財団記念館
「中央アジアにおける『聖なる集団』─地域を超えた繋がりとアイデンティティの多様性」
アジム・マリコフ(ウズベキスタン科学アカデミー)
2018年2月9日、於:京都大学稲盛財団記念館
「ソ連崩壊後のクルグズ共和国とカザフスタンにおけるカクン技芸」
カリマン・ウメトバエヴァ(東京芸術大学)

森林の生態系サービス (ecosystem services) の比較─アジアとラテンアメリカ
2018年1月8-9日、ペルー・クスコ
「ペルー・ウカヤリにおける共同体基盤の森林管理にとっての森林生体系サービスの役割」
ティナ・バウア(ドイツ技術協力公社)
「ブラジルアマゾンの生態系サービスと保護区─機会と脅威」
ウォルター・カノ(国際自然保護連合)
「発展途上の生態系サービスのビジネスチャンス」
カルロス・コルネホ(ペルー国立公園保護区国家基金)
「環太平洋の生態系サービス─アジアとアメリカ大陸の視角、展望、展開の比較」
ウィル・デヨン(京都大学)
「ペルーアマゾンにおける生態系サービス」
デニス・デルカスティジョ(ペルーアマゾン研究所)
「科学と政策の統合アプローチの下での生態系サービス─ボリビアからの視点」
ディエゴ・パチェコ(ボリビア・開発計画省次官)

ワークショップ「装いと規範」
2018年2月10日、於:京都大学稲盛財団記念館
「ニカーブをまとうまで―現代イスラームにおける『自己選択』の諸相」
後藤絵美(東京大学)
「ルモルとヒジョブの境界―社会主義的世俗主義を経たイスラーム・ヴェール問題」
帯谷知可(京都大学)
「インドネシアにおけるハラール化粧品の隆盛と女性たちの美意識」
野中葉(慶応大学)

研究成果の概要

[ 平成28年度 ]
本研究は、世界レベルで覇権をめぐって争う能力を持つアメリカ合衆国と中国を中心とする強国間の関係、ならびにそれ以外の国々の発展と国際舞台での行動のあり方という二つの次元の組み合わせによって世界秩序が方向づけられてゆく、との枠組みを前提としている。そのなかでも、先行して実施した研究の成果を踏まえ、後者の中東欧やラテンアメリカ、中東、アジアといった地域やそれらに含まれる諸国の発展のあり方に重点をおいて分析と考察を進めている。その過程で確認できるのは、国際的な秩序が大きく動揺していることが鮮明となった2014年以降の流動的な世界情勢のもとで、政治社会発展の課題にあらためて直面している世界の各地域や諸国の状況である。端的に言えば、我々は、社会包摂的な発展のための「20世紀モデル」に代わる「21世紀モデル」を未だ見出していない。
 ラテンアメリカは世界でも早い段階に、新自由主義経済路線が地域大に浸透した地域である。しかも、その多くの国では、非民主主義的な政治支配から民主主義体制への移行と並行して、あるいは移行の直後から新自由主義経済路線の導入が政治課題となり、市場経済原理の徹底と民主化が同時に進行する「二重の移行」が地域レベルで発生した。
 比較的短期間のうちに新自由主義経済路線が拡大した背景には、1930年前後から約半世紀にわたりラテンアメリカ諸国が共通して追求してきた国家主導型発展モデルが破綻したことがあった。同時期に、欧米や日本でも第二次世界大戦前後から続いてきた福祉国家モデルが限界に達し、新自由主義経済路線が導入された。しかしラテンアメリカのような破綻状況ではなく、また国家の役割を重視する旧来のモデルの受益者もかなりいたため、ラテンアメリカと比較すれば新自由主義経済路線の導入は時間をかけて実行に移された。
 とはいえ新自由主義経済路線の影響は同じで、社会の格差を拡大し、早期の導入をみたラテンアメリカではその批判がすでに前世紀末から高まり、批判勢力が政権に就く「左転回」が起こった。その過程で急進左派と呼ばれる新自由主義経済路線にもっとも批判的な勢力が政権に就いた国では、民主主義体制の毀損が観察された。他方、新自由主義経済路線がどちらかといえば時間をかけて進められた欧米では、2010年代に入ってから社会の亀裂状況が政治の場にも明示的な形で現れるようになり、民主主義を動揺させている。その具体的な現象は、アメリカ合衆国における2016年の選挙過程とドナルド・トランプ候補勝利、またヨーロッパ各地で台頭する排外主義的な勢力や反EUの動きである。
 国家が一定の役割を果たす「20世紀モデル」が限界に達して以降、グローバル化が進む世界における国家と市場、国家と社会との関係の「最適解」を探し求める試みが続けられてきたが、未だに発見できておらず、「21世紀モデル」は暗中模索の段階である。それは「より洗練された」権威主義的な支配の存在感が世界レベルで増している状況と相俟って、21世紀世界の将来への見通しを厳しいものにしている。

[ 平成29年度 ]
本研究の出発点となっている分析視角は、世界、それを構成する様々な地域、国家と社会という3つのレベルにおいて、そして同時にそれらを貫いて変動する秩序の動態を捉える、というものである。これをより単純化し、世界と地域、国家と社会という二層とした場合、今世紀に入って顕著となっているのは、国家や社会のレベルで起きた変動が、世界や地域のレベルでの変動に大きな影響を与えていることである、というのが、本研究の仮設である。
 国家や社会の変動が地域のレベルに大きな影響を与えているというのは、中東、中東欧、ラテンアメリカの最近の変動から指摘できることである。例えば中東は、元来地域外の大国の干渉を受けてきた地域で、20世紀の終わりには、アメリカ合衆国との同盟・敵対関係を基盤とした二極構造となっていたが、今世紀の同国による対テロ戦争の展開とその後に中東各国で起きた「アラブの春」と呼ばれた動きを受けて、二極構造が崩れ不安定化し、「イスラム国」が誕生した。中東欧では、1990年代以降の経済社会変動を背景とする各国の政治勢力関係の変化から、ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリーは親EUだった姿勢を変化させた。ラテンアメリカでは、新自由主義の格差拡大を受けた左派勢力の台頭により、急進左派、穏健左派が生まれ、新自由主義派が少数となった。
 国家や社会のレベルでの変動動態が地域レベルの変動を左右する「下からの動態」の重要性は、個別ユニットの研究をふくめ本年度に展開した研究によっても確認できる。

公表実績

[ 平成28年度 ]
関連した国際研究集会については、上記 5. の研究実施状況、ならびに個別共同研究ユニットについての報告を参照。
 また、研究成果の出版物として以下のものがある。
 Murakami, Yusuke ed. 2017. Desarrollo, integración y cooperación en América Latina y Asia-Pacífico: perspectivas y rol de Japón. (『ラテンアメリカとアジア太平洋における発展、統合、協力─日本の視点と役割─』)Lima: Instituto de Estudios Peruanos.
 以下の研究書が近刊(5月刊)。
 村上勇介・帯谷知可編 2017『秩序の砂塵化を超えて─環太平洋パラダイムの可能性』京都大学学術出版会。

[ 平成29年度 ]
村上勇介・帯谷知可編 2017『秩序の砂塵化を超えて─環太平洋パラダイムの可能性』京都大学学術出版会。

研究成果公表計画, 今後の展開等

[ 平成28年度 ]
引き続き、専門誌への投稿や研究書の刊行を行ってゆく。
 平成29年度から始まる5つの個別共同研究ユニットと有機的な活動を展開する。個別共同研究ユニットには国際関係に焦点を合わせたユニットがあらたに加わり、本研究の活動をつうじて、「国家と社会のレベルでの動向が地域レベル秩序変動に大きく影響している」という先行して実施した研究の成果(村上・帯谷編 2016 『融解と再創造の世界秩序』)をあらためて検証するとともに、秩序再編の動態を明らかにすることにむけて、個別共同研究ユニット間の有機的なつながりを一層深めるようにする。

[ 平成29年度 ]
関連学会の大会や研究会において発表することを計画する。パネルや分科会を提案することを考える。成果を一般に公開するワークショップないしセミナーを実施する。
 また、出版による成果については、雑誌『地域研究』での特集の企画や専門書の刊行を検討する。

 

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