体制転換過程の比較研究─社会運動と軍・政党

代表

末近 浩太(立命館大学国際関係学部・教授)

共同研究員

内田 みどり(和歌山大学教育学部・教授)、浦部 浩之(獨協大学国際教養学部・教授)、遅野井 茂雄(筑波大学人文社会科学系・教授)、吉川 卓郎(立命館アジア太平洋大学・アジア太平洋学部・准教授)、末近 浩太(立命館大学国際関係学部・教授)、住田 育法(京都外国語大学外国語学部・教授)、高橋 百合子(早稲田大学政治経済学術院・准教授)、田中 高(中部大学国際関係学部・教授)、浜中 新吾(龍谷大学法学部・教授)、松尾 昌樹(宇都宮大学国際学部・准教授)、宮地 隆廣(東京大学東京大学大学院総合文化研究科・准教授)、村上 勇介(京都大学東南アジア地域研究研究所・教授)、横田 貴之(明治大学情報コミュニケーション学部・准教授)

期間

平成29年4月~平成31年3月

目的

本研究の究極的な目的は、権威主義体制が動揺・崩壊し、民主主義体制に移行する体制転換過程の新たな分析枠組を構築することにある。それにむけて本研究は、体制転換過程の主要なアクターである軍、政党ならびに社会運動の三者に焦点を当て、その相互作用を分析する。とりわけ、権威主義体制が動揺し崩壊する契機となる社会運動に着目し、それが軍や政党という体制転換と直接的に関係する政治アクターとどのように関わり、その行動にどのような作用を及ぼすのかという点に関心を向ける。対象とする地域は中東とラテンアメリカである。中東は、2010年末から「アラブの春」と呼ばれた政治変動を経験するが、それが民主主義体制へと移行するに至った国はほとんどなかった。これに対し、1970年代後半から権威主義体制の動揺、崩壊の過程が明らかとなったラテンアメリカでは、例外なく体制移管が進んだ。そのような帰結の相違をもたらした原因について、社会運動の作用に着目しながら政治変動の過程を比較し、分析・考察する。本研究は、複合共同研究ユニット「秩序再編の地域連関」が提起する三つの分析の視点(地域・世界、国家、社会)のうち、国家の視点からの分析である。

研究実績状況

[平成29年度]
以下の関連企画を準備、実施するなかで、本プロジェクトのテーマについて検討を行い、また企画は研究会を兼ねて実施した。
日本ラテンアメリカ学会第38回定期大会メキシコ政治学会共催パネルIII「民主主義」
2017年6月4日、於:東京大学駒場キャンパス
「2012~16年のメキシコの地方レベルにおける民主主義の質」
ヘスス・ロドリゲス(フアレス市自治大学)
「ラテンアメリカの民主主義─過去30年における変動動態と政党システム」
村上勇介(京都大学)
「メキシコの民主主義の質─比較の観点から」
ホセ・マヌエル・ルケ(シナロア自治大学)
「誰のための道具か?─ラテンアメリカにおけるレフェレンダムと民主主義の質」
宮地隆廣(東京大学)

日本スペイン史学会セミナー「20世紀後半の権威主義的な政権の崩壊・民主化」
2017年7月22日、於:関西学院大学上ヶ原キャンパス
「1970年代に展開されたスペインの民主化―政治アクターを中心に」
永田智成(首都大学東京)
「ラテンアメリカにおける『民主化』(民主主義への移行)再考」
村上勇介
現代メキシコセミナー
2017年11月2日、於:京都大学稲盛財団記念館
「メキシコ民主主義の危機」   
アルベルト・アシス(メキシコ・人類学高等研究調査センター)
「メキシコ社会経済の安定的な停滞と課題」
エンリケ・バレンシア(メキシコ・グアダラハラ大学)
「メキシコ経済における日本による投資の役割」
メルバ・ファルク(グアダラハラ大学)

ラテンアメリカ政経学会第54回全国大会企画パネル「現代ラテンアメリカの『ポピュリズム』」
2017年11月4日、於:京都大学稲盛財団記念館
「ボリビア・モラレス大統領の『ポピュリズム』―インフォーマルな支持基盤と制度の軽視」
岡田勇(名古屋大学) 
「ポピュリズムのロジックから考えるエクアドル・コレア政権」                  
上谷直克(アジア経済研究所)
「ベネズエラ・チャベス政権の軌跡とマドゥロ政権の動向」
村上勇介

ワークショップ「装いと規範」
2018年2月10日、於:京都大学稲盛財団記念館
「ニカーブをまとうまで―現代イスラームにおける『自己選択』の諸相」
後藤絵美(東京大学)
「ルモルとヒジョブの境界―社会主義的世俗主義を経たイスラーム・ヴェール問題」
帯谷知可(京都大学)
「インドネシアにおけるハラール化粧品の隆盛と女性たちの美意識」
野中葉(慶応大学)

 
また、研究代表者を含む数名の共同研究員が集まって、分析視角や研究課題について集中的に検討する研究会を、2017年7月10日(立命館大学)、12月16日(京都大学稲盛財団記念館)に実施した。

[平成30年度]
以下の関連企画を準備、実施するなかで、本プロジェクトの成果や分析視角について、異なった視点や本研究が主たる対象とする地域以外の事例も含めた検討を行った。企画は研究会を兼ねて実施した。
日本ラテンアメリカ学会第39回定期大会シンポジウム「2018年『選挙の年』以降のラテンアメリカの展望」
2018年6月3日、於:愛知県立大学長久手キャンパス
「政党システムは機能する─ブラジル政治はいかにアウトサイダーの台頭を防ぐのか」
舛方周一郎(神田外語大学)
「チリ─2017年大統領・議会選挙と政党システム再編の可能性」
安井伸(慶應義塾大学)
“Elecciones presidenciales de México en 2018: tendencias y perspectivas”
Jesús Rodríguez(Universidad Autónoma de Ciudad Juárez)
「コロンビア2018年選挙と和平プロセスの行方」
幡谷則子(上智大学)
「キューバ─共産党一党支配体制における指導者交代」
山岡加奈子(ジェトロ・アジア経済研究所)

比較経済体制研究会第37回夏季研究大会メインセッション「ポピュリズムと比較経済体制論」
2018年8月25日、於:京都大学経済研究所
「『ポピュリズム』の政治学─ラテンアメリカ研究での議論と現代の位相」
村上勇介(京都大学)
「ロシアー権威主義とポピュリズムのはざまで―」
小西豊(岐阜大学)
「欧州ポピュリズム対ハンガリーポピュリズム」
田中宏(立命館大学)
コメント:小林拓磨(松山大学)、柳原剛司(松山大学)

第20回日伯フォーラム
2018年12月23日、於:京都大学東一条館201大講義室
「ブラジル医療支援─心と心、想いをつなぐ」   
戸田明(高知南ロータリークラブ財団委員長)
「ボルソナーロ新政権の成立とこれからの日伯交流の行方」
舛方周一郎(神田外語大学)
コメント:Andrea Urshima(京都大学)、村上勇介(京都大学)
             
セミナー「強権政治のいま─東南アジアとラテンアメリカの事例から」
2019年3月29日、於:京都大学稲盛財団記念館
「反動としての強権政治と民主化からの逸脱―タックシン政権以降のタイ」
外山文子(京都大学)
「『例外状態』における『義賊』の正統性─ドゥテルテの政権下のフィリピン」
日下渉(名古屋大学)
「長期政権下での支持基盤と正統性の変遷─エボ・モラレス政権下のボリビア」
岡田勇(名古屋大学)
「民主主義崩壊の典型としてのベネズエラ─チャベス政権の誕生からマドゥロ政権の動揺までの過程」    
村上勇介(京都大学)
 
また、研究代表者を含む数名の共同研究員が集まって、分析視角や研究課題について集中的に検討する研究会を、2018年12月16日に実施した(於:立命館大学)。

研究成果の概要

[平成29年度]
本研究の焦点である社会運動の影響については、社会運動が他の地域や国と比べて活発な韓国やボリビアなどの事例から、政党政治の展開にどうつなげてゆくかが課題となっている。中東で非民主主義的な支配に対する反発が現れた「アラブの春」の際にも、要求が民主主義的な政治の枠組みの過程に入り、その中で「消化、吸収」されることなく、混乱が広まる一方で「実権力」の軍が安定化にむけて動き出すこととなった。ラテンアメリカの1980年前後の民主主義への移行の過程でも、チリやメキシコなど、政党政治の力学に体制転換を推進した社会運動が吸収された例では、社会運動自体は勢力をそいでゆくことになるものの、民主主義体制は安定的に展開することとなった。逆に、社会運動の要求が政党政治の過程に十分に取り込まれなかった場合は、エクアドルやボリビア、ペルーなどの事例に示されるとおり、政党政治自体が弱いこともあり、社会運動が一定の力を保つ一方、政党政治に基づく安定した民主主義は現れなかった。
政党政治が十分に機能できず、他方、ラテンアメリカのように軍が政治への介入をためらうような場合は、ポピュリズム現象が発生する。とりわけ、中道左派の勢力が弱く、新自由主義などのグローバル化の帰結による社会の亀裂の激化による不満を吸収できない政治では、「少数の特権エリート」を批判するポピュリスト的な指導者や勢力が台頭する余地が広がる。

[平成30年度]
本研究の焦点である社会運動の影響については、前年度に社会運動が他の地域や国と比べて活発な韓国やボリビアなどの事例から、政党政治の展開にどうつなげてゆくかが課題となっていることに注目し、政党政治の安定的な展開に繋がった例と繋がらなかった例の比較から政党政治に社会運動の要求が取り込まれて社会運動は活動を低下させる傾向があることを指摘した。ただ、そうした政党政治も、一定の期間を経ると社会との距離が生じ、社会の要求、とりわけ汚職追及などの新たな要求(課題)に対応できず、不安定化する例が近年、発生している。今年度は、そうした例に着目しつつ、政党政治が不安定化し、「ポピュリズム」とされる現象にいたるメカニズムについてより詳細な検討を行うとともに、その構造的な背景となっていると考えられる格差についてラテンアメリカを中心に検証した。
「ポピュリズム」は、定義が論者によって異なる場合があり、どの事例を対象とするか、研究関心などにより異なることもしばしばみられる。共通の理解が進んでいるとはいいがたい面があるが、とりあえず、より頻繁に使用されるようになってきたとみられる「我々大衆(人民)とそれに対峙する彼ら/少数の特権エリートの二分法で政治社会を捉え、後者を批判する政治を展開する人物や勢力による動き」とすると、そうした勢力が台頭する過程では、中道勢力の弱体化や消滅が観察されている。焦点となる中道の性格は、同過程でのアジェンダ(主要課題)設定に依存する。20世紀終わりから21世紀初めにかけて格差拡大が課題となった時期には中道左派の有無が左右した。近年の汚職追及が一定の関心を集める状況では、中道左派政権の汚職が問題とされる文脈のなかで、中道右派勢力がプレゼンスを有していないと、急進的な言説をもてあそぶ右派勢力が台頭している(ブラジル)。
格差については、今世紀初頭の世界資本主義経済の拡大のもとでの発展によっても、結局は、解消しえなかったことが示された。原材料輸出(南米諸国)とグローバル生産チェーンへの参入(メキシコ・中米・カリブ海諸国)と形態は異なっていたものの、経済拡大を享受し、社会政策の拡充などにより再分配を進めたことにより、格差が縮小する傾向は見られた。しかし、それは格差を根本的に解消するほどのものではなく、ラテンアメリカは依然として格差が最も大きい地域である。

公表実績

[平成29年度]
村上勇介編『「ポピュリズム」の政治学─深まる政治社会の亀裂と権威主義化』(国際書院、2018.03出版予定、2月半ば時点で二校まで進行中)

[平成30年度]
上述の国際会議や学会などでの報告、発表、企画にくわえ、以下の刊行物を公にした。
浜口伸明編『ラテンアメリカ所得格差論─歴史的起源・グローバル化・社会政策』(国際書院、2018年、査読有)
村上勇介編『「ポピュリズム」の政治学─深まる政治社会の亀裂と権威主義化』(国際書院、2018年、査読有:昨年度の報告で出版予定のところ、予定どおり出版)

研究成果公表計画, 今後の展開等

[平成29年度]
 関連学会の大会や研究会において発表することを計画する。パネルや分科会を提案することを考える。成果を一般に公開するワークショップないしセミナーを実施する。
 また、出版による成果については、雑誌『地域研究』での特集の企画や専門書の刊行を検討する。

[平成30年度]
関連学会の大会や研究会において発表することを計画する。パネルや分科会を提案することを考える。成果を一般に公開するワークショップないしセミナーを実施する。
また、出版による成果については、雑誌『地域研究』での特集の企画や専門書の刊行を検討する。
 

 

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