災害対応の実践の場としてとらえる映像作品―東南アジアを事例として(終了・篠崎香織)(2016)

代表

篠崎 香織(北九州市立大学外国語学部・准教授)

共同研究員

岡田 知子(東京外国語大学総合国際学研究院・准教授)、長田 紀之(日本貿易振興機構アジア経済研究所地域研究センター動向分析研究グループ・研究員)、亀山 恵理子(奈良県立大学地域創造学部・准教授)、篠崎 香織(北九州市立大学外国語学部・准教授)、西 芳実(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)、橋本 彩(東京造形大学造形学部・助教)、平松 秀樹(大阪大学外国語学部・非常勤講師)、山本 博之(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)

期間

平成28年4月~平成29年3月

目的

本研究は、「災いへの社会的対応」を災いに由来する社会の亀裂の修復という側面からとらえ、災いへの対応の場として映像作品に着目し、東南アジアの事例を扱う。デジタル・通信技術の進展により誰もが映像を製作できるようになったことと、東南アジアの多くの国において強権的な統治が緩み表現の自由が拡大したことが重なり、東南アジアでは2000年代以降映像を通じて個々の問題意識や表現欲求を表明する活動が活発化している。安定と成長が定着しつつある東南アジアの現状とは対象的に、近年の東南アジアの映像作品には、紛争、政治的暴力、格差の拡大などの災いに由来する社会の亀裂を題材とする作品が多い。これらの作品は、作品として破綻しないように「物語」を収束させなければならず、そのなかで社会の亀裂も修復に向けて描かれる構造が内包されている。こうした点をふまえて本研究は、東南アジアの映像作品を「災いへの社会的対応」の実践事例として読み解くことを目的とする。

研究実績状況

[H28年度]
本研究は、平成27年度CIAS共同研究「危機からの社会再生における情報源としての映像作品―東南アジアを事例として」(研究代表者:篠崎香織)の成果を出版につなげることを中心に実施した。全体の構成や章立てを検討すべく、研究会を5回(2016年7月3日、9月16日、11月30日、2017年1月31日、3月15日)実施し、災いに由来する社会の亀裂とその修復という観点から映像作品を分析するとともに、作品と関連する現実社会における災いについて分析を行った。異なる国や地域を専門とする研究者が共通の映像資料を共同で読み解くという作業を行い、現地の人たちや地域研究者にとっては自明であるが明文化されていない情報や文脈の抽出を行った。研究会で得た知見を精緻化すべく、公開研究会を1回、公開シンポジウムを2回実施し、プロジェクト外の研究者や東南アジアの映画人と意見交換するとともに、研究成果を一般社会に向けて発信した。研究成果の発信においては、ディスカッション・ペーパーを刊行するとともに、ウェブサイトも活用した。

研究成果の概要

[H28年度]
災いに由来する社会の亀裂とその修復という観点から映像作品を分析した結果、災いそのものはそれぞれの国や地域において固有の歴史的展開を遂げてきたものの、東南アジアにおいて広く共通する災いの類型が抽出された。それらの類型とは、多民族社会、都市化、家族と個人、域内格差、階層格差、宗教とテロ、戦争の記憶、内戦と女性、移民・越境、植民地支配などである。出版企画においては、これらの類型に関する災いが東南アジアで広く共通してみられることを念頭に置き、それぞれの課題がもっとも先鋭的・象徴的に現れている国や地域の事例を中心に記述していくという手法を採ることとなった。
異なる国や地域を専門とする研究者が共通の映像作品を共同で読み解く作業を通じ、災いの類型は共通であってもそれをどう語るかにおいて、国や地域ごとに物語の型が見られることがわかった。これに関して、マスメディアでの情報は翻訳を通じておおむね共有されうるが、映画では情報の伝達が物語の型に依存する部分が大きく、その型を共有していないと単に翻訳しただけでは共有され得ない情報がある可能性が指摘された。また同一国家内でも、映画においては言語ごとに製作者・消費者が分断されている状況が顕著であることが指摘された。東南アジアの多くの国では、教育やマスメディアを通じた国語・公用語の普及によりコミュニケーションが可能となっているが、他方で物語の語られ方においてはコミュニケーションの断絶が生じうる可能性が示された。

公表実績

[H28年度]
(1)出版
・ディスカッションペーパー
山本博之・篠崎香織編 2017『不在の父――混成アジア映画研究2016』(CIRASディスカッションペーパーNo.67)、京都大学東南アジア地域研究研究所。
・論文
岡田知子 2017「『シアター・プノンペン』に見る家族のかたち――父の不在、復帰、そして父からの自立』」山本・篠崎編、2017、8-18。
岡田知子 2017 「シネコンの誕生と勧募耳朶映画産業の再起」山本・篠崎編、2017、69-71。
篠崎香織 2017 「過去10年におけるシンガポールのヒット映画」山本・篠崎編、2017、52-56。
西芳実 2017 「インドネシア映画に見る父子関係の乗り越え方――『再開の時』『珈琲哲学』『三人姉妹(2016年晩)』より」山本・篠崎編、2017、19-29。
橋本彩 2017「『アット・ザ・ホライズン』に見る父子の関係」山本・篠崎編、2017、46-50。
橋本彩 2017「若手映画人によるラオス映画の潮流」山本・篠崎編著、2017、64-68。
平松秀樹 2017「タイのヒット映画に見る地域性と時代性」山本・篠崎編、2017、57-63。
平松秀樹 2017 「タイと海賊」稲賀繁美編、2017、『海賊史観から見た世界史の再構築』思文閣出版。
山本博之 2017 「フィリピン映画に見る父性の諸相――恋愛ドラマを中心に」山本・篠崎編、2017、30-38。
山本博之 2017 「シンガポール映画『セブンレターズ』に見る「母としてのマレーシア」イメージ――「覚悟」から見る東南アジア映画論に向けて」山本・篠崎編、2017、39-45。
山本博之 2017 「未完のフィリピン革命を問う」山本・篠崎編、2017、74-75。
山本博之 2017 「『痛ましき謎への子守歌』作品情報」山本・篠崎編、2017、75-79。
(2) 公開研究会
「タレンタイム―1950年代のシンガポール・マラヤにおけるタレント発掘コンテストの社会史」(2017年3月22日、立教大学池袋キャンパス)
(3) 公開シンポジウム
 「変わりゆく景観とアート:東南アジア映画の挑戦」(アジアフォーカス福岡国際映画祭、国際交流基金アジアセンターとの共催、2016年9月17日、ぼんプラザホール)
「ハードボイルド刑事とレディー・クンフー:マレーシア映画の新地平」(大阪アジアン映画祭連携シンポジウム、2017年3月9日、国立国際美術館講堂)
(4) 電子媒体
 混成アジア映画研究会ウェブサイト(http://personal.cseas.kyoto-u.ac.jp/~yama/film/index.html

研究成果公表計画, 今後の展開等

[H28年度]
災いに由来する社会の亀裂とその修復というテーマについては、平成29年度内に商業出版を通じた研究成果の公開を目指す。また物語の型の発展における東南アジアにおける相互参照・交流の歴史について、科研費基盤研究B「物語文化圏としての東南アジア-20世紀前半の映画の製作・流通に見る越境性と混血性」(研究代表者:山本博之、H28〜31年度)で継続的に実施する。

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