冷戦下における華人の文化表象「空白期」についての比較研究――インドネシア、タイ、フィリピンを中心に

代表

黄 蘊(尚絅大学現代文化学部・准教授)

共同研究員

黄 蘊(尚絅大学現代文化学部・准教授)、舛谷 鋭(立教大学観光学部 交流文化学科・教授)、宮原 暁(大阪大学大学院言語文化研究科・教授)、福岡 まどか(大阪大学大学院人間科学研究科・教授)、松村 智雄(大阪大学大学院言語文化研究科・講師)、山本 博之(京都大学東南アジア地域研究研究所・准教授)、タンシンマンコン パッタジット(早稲田大学社会科学部・助教)

期間

2020年4月~2021年3月(1年間)

目的

 インドネシア、タイ、フィリピンにおいては共通して、過去30年間の間に華人住民に対して同化政策ないし抑圧的な政策が実施されてきた。また、1990年代以後、一部の華人住民の間においてエスニック文化の再生という現象が観察されている。この3ヵ国はいずれも第二次大戦後国民統合の課題を抱え、また「反華人的」ナショナリズム期を経験した。概ね1990年代までは華人住民は様々な政策的な制約ないし抑圧的な扱いを受け、その中で華人のエスニック文化の実践がほぼ空白だったとされている。しかし、実際は内外の文化的なネットワークをたどって華人のエスニック文化の実践が維持され続けていたことも指摘されている。本共同研究は、東南アジア域内の多国間の華人の間の文化的往来・連携に関する考察を行いながら、冷戦期の上記3ヵ国における華人の文化表象のあり方、その実像を究明することによって、この3ヵ国における華人住民のアイデンティティの様相、ホスト社会における華人の位置づけを再考する。それによって、東南アジアにおける華人史の新たな側面を提示する。上記の華人史と華人の文化表象についての考察を通して、それぞれの国の国民統合の歩み、ナショナリズムのあり方を再検討することも本共同研究の射程内にある。

研究実績状況

本年度は1回国内研究会を実施し、メンバー間で有意義な議論を行うことができた。
日時: 2021年1月23日(土)(zoomによるオンライン参加)

13:30~13:40 研究者自己紹介
13:40~16:10   下條尚志(ゲストスピーカー)「混淆と移動から考えるベトナムの華人」研究報告、質疑応答
16:10~16:20  休憩
16:20~17:50  黄蘊「インドネシア・メダン、タイとマレーシア・ペナンの華人間のネットワークと文化交流」 研究報告、質疑応答
17:50~18:30 全体討論

研究成果の概要

東南アジア地域のインドネシア、タイ、フィリピンにおいては共通して過去30年間の間に華人住民に対して同化政策ないし抑圧的な政策が実施されてきた。また、20世紀90年代以後、共通して一部の華人住民の間においてエスニック文化の再生という現象が観察されている。本共同研究はインドネシアの華人の問題を中心としながら、タイ、フィリピン研究者にもゲスト・スピーカーとして研究会で報告してもらい、広く東南アジア地域の華人の文化とアイデンティティの問題について有意義な議論と検討を行うことができた。
インドネシア、タイ、フィリピンにおいていずれも冷戦期における表面上の華人文化表象の「空白期」があり、また共通して実際ほかの近隣地域の華人との文化的な交流、連携などがあったことが認められる。この三つの地域において、それぞれどのような華人に対する同化政策ないし抑圧的な政策が行われ、華人住民たちはどのような対策を講じ、もしくは講じなかったのか、華人の文化表象・実践はどのようなかたちで行われてきたのか。これまでの研究会において、上記三カ国の事例研究、また比較研究につながる有意義な議論が展開され、インドネシア、タイ、フィリピンのこれまでの文化政策、国民統合政策を検討したのみならず、具体的な経済、教育などの分野の華人に関する動態について把握することもできた。
総じて、インドネシア華人の状況を中心としながらも、タイ、フィリピンに関する冷戦期や現在の当該の国の華人の状況について検討することもできた。本共同研究は、今後の研究の深化、継続につながる有意義かつ重要なステップであると位置付けることができる。

公表実績

[出版]
舛谷 鋭 「東南アジアのサイノフォン詩人たち」 『現代詩手帖』 2021.1
[発表]
異文化交流論−マレーシア 特別講義・長崎大学多文化社会学部 2020.11
[基調講演]
舛谷 鋭 ダークツーリズムの彼岸 台湾日本言語文芸研究学会 2020.12
[企画・運営]
舛谷 鋭 International Conference on Dialog between Sinophone and Orality 大阪大学、マラヤ大学共催 2020.12

研究成果公表計画, 今後の展開等

本共同研究をベースとして、2020年11月に本共同研究のメンバーをコアメンバーとして、「冷戦下における東南アジア華人の文化表象「空白期」比較研究」と題する科学研究費補助金基盤Bに応募することができた。当科研が2021年度に採用されることになるなら、これまでの共同研究の継続として、冷戦下における東南アジア華人の文化表象という研究課題に引き続き取り組んでいきたいと考える。

 

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