地域情報学ツールの活用-東ティモールの小規模ダム評価のために

代表

嶋田 奈穂子(総合地球環境学研究所・研究員)

共同研究員

嶋田 奈穂子(総合地球環境学研究所・研究員)、柳澤 雅之(京都大学東南アジア地域研究研究所・准教授)、Eugunio Lemos(NGO Permatil・代表)

期間

2020年4月~2021年3月(1年間)

目的

 2002年に独立した東ティモールは、現在、国民国家建設の最中にある。1975~99年のインドネシアによる暴力的な支配と、その間に実施された安価な食糧援助の中で、東ティモールの自然資源に立脚した食糧生産体制が崩壊し、輸入に依存する体制が構築された。皮肉なことに、この体制は独立前後の国際機関による援助の際も変わることがなかった。現在の東ティモールでは、現地の自然資源を利活用し、持続可能な食糧生産体制を構築することが喫緊の課題となっている。そのためのキーとなるのが水源確保である。相対的な乾燥地にありながらインフラ整備が遅れているため、東ティモールでは国民の重要な水源に湧水がある。1975年以降の混乱の中で失われた、湧水に関する在来知の掘り起こしと現代的な利用を検討した昨年度のCIRASの研究課題を通じて、在来知からヒントを得た小規模ダム建設の効果が徐々に得られていることが明らかとなった。しかしその活動は個人の努力に依拠し、ようやく行政との協力が始まったところである。そこで本研究では、在来知にヒントを得た小規模ダム建設を先駆的に実施してきたエグニオ・レモス氏と協力し、これまで東ティモール国内1500か所以上で建設されてきた小規模ダムの効果を、地域情報学ツールを用いて全国的かつ持続的に明らかにすることを目的とする。

研究実績状況

本年度は、コロナ禍のため、現地調査を行うことができなかった。そのため、1. 昨年度末の現地調査で収集したデータの整理と分析、および、2. 東ティモールのため池に関する統計資料の調査を行った。昨年度末(2020年1月15日~1月24日)の現地調査の整理と分析では、集落の立地と湧水の位置の関係、湧水の維持管理、在来知の現代的展開について検討した。2.統計資料の調査では、首都Diliを除く12の県のwater sourceについての資料(タイプ、緯度経度情報、標高)を入手した。

研究成果の概要

東ティモールは、地形的には隆起石灰岩が卓越し、降水条件は、雨季(12~6月)と乾季(7~11月)が明瞭に区別され、年降水量も平均すれば800mmほどであるが、多雨年は1600mm、寡雨年では400mmと年較差が大きい。水資源の確保が生存にきわめて重要であるが、雨季あるいは大雨の際にのみ流路が形成されるワジが多いため、代わって湧水が、飲用にも農業用にも重要である。遊水地は、石灰岩台地の縁に位置することが多く、急斜面に住居と農地が集中する。1975~1999年に、インドネシア政府によって建設された水道施設は、プラスチックパイプを用い、水源から各世帯に飲用水を供給しようとしたが、東ティモールの独立以降、放置され、劣化が激しい。そのため、湧水が現在も水源として利用される。かつて、多様な湧水源があり、さまざまな儀礼を通じて維持管理されてきたが、インドネシア国軍による占領と独立に至る戦闘の中で、湧水地の枯渇や維持管理ための制度が崩壊した地域も多い。本研究の共同研究者であるエゴ・レモスは、かつての湧水の立地や伝承を参考にして、山の頂上付近に位置する窪地・平坦地に、小規模ダムを建設する活動を開始した。小規模ダムは、大きいもので縦横100mを越えることもあるが、ほとんどは十数メートル四方程度で湛水深も1~2mと浅い。にもかかわらず、「下流の泉源からの水量が乾季でも安定した」「それまで枯れていた泉源に水が流れるようになった」という証言を得ることができた。小規模ダムが建設された位置と水流が復活した湧水源はかならずしも同じ地層にあるわけではない。また、複数の泉源を経由することで、下流の泉源の水量が安定したという話も聞かれた。小規模ダムの効果は、必ずしも貯水された水量にのみ依存するのではなく、頂上付近の水源を維持することで、あたかも山全体が保水力を有するようになるようなメカニズムが考えられるが、詳細は今後の課題である。

公表実績

嶋田奈穂子・柳澤雅之・エグニオ・レモス. 20210.「地域情報学ツールの活用-東ティモールの小規模ダム評価のために」CIRASセンター共同利用・共同研究報告会、2021年2月16日、京都大学

研究成果公表計画, 今後の展開等

未定

 

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