アジアの薬用植物資源の生産・流通・利用の歴史に関する学際的研究:モノから見るグローカルヒストリー

代表

岡田 雅志(防衛大学校・准教授)

共同研究員

石橋 弘之(総合地球環境学研究所・研究員)、岡田 雅志(防衛大学校人間文化学科・准教授)、小田 なら(千葉大学グローバル関係融合研究センター・特任研究員)、辻 大和(横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院・准教授)、柳澤 雅之(京都大学東南アジア地域研究研究所・准教授)

期間

2019年4月~2020年3月

目的

本研究は、東南アジア大陸部山地で産出される代表的熱帯植物資源の一つであるシナモンを中心に、アジアの薬用植物資源が、いかに生産・流通・利用されてきたかを歴史的に明らかにしようとするものである。申請者はこれまでの研究で、朱印船貿易を通じて生薬用途における品質において高い評価を受けたベトナム産シナモンが鎖国期を含め近世日本社会に輸入され続けたことが生産地であるベトナム社会に大きな影響を与えた事実を明らかにした。本研究においては、その成果に基づきながら、朝鮮の薬用人参、カンボジアのカルダモンの歴史に関する専門家に加えて人類学(伝統医学)、生態学の専門家を共同研究メンバーに迎え、近世以降のアジアの海域交流と広域市場の変容の中で、薬用植物資源がいかに生産、流通、消費されてきたか、また薬用植物資源を通じて東アジア・東南アジアの各地域社会がいかにつながっていたかを明らかにすることを目指す。

研究実績状況

[2019年度]
のべ3回の研究会を開催し、各時代における薬用植物資源の流通・生産・利用を規定する構造的要因や、それぞれの資源や地域の間の差異について議論を深めた。各回の研究報告の内容は以下の通りである。岡田雅志(防衛大学校)「近世~近代におけるアジアの市場連関と資源利用―シナモンを事例に」柳澤雅之「地域文化が残す自然資源―鹿児島県さつま町のシナモン栽培」(以上、第1回、2019年12月8日)、石橋弘之「カンボジアにおける交易品の産地形成-カルダモン産地の開拓史再考-」(第2回、2020年1月31日)、小田なら「ベトナムにおけるシナモン利用法の変遷に関する予備調査」、辻大和「朝鮮王朝後期の薬用人蔘流通」(以上、第3回、2020年2月4日)
また、2020年3月に、江戸時代~20世紀前半にかけて国内における重要なシナモン産地であった高知県において現地調査を実施し、関連する植物学及び歴史関連の資料収集を実施した。

研究成果の概要

[2019年度]
 3回の研究会での報告及び議論によって、アジアにおける薬用植物資源流通の歴史的変遷について各植物資源に共通する次の点が明らかになった。①16世紀末~18世紀にかけて、アジア各地の薬用植物資源の開発が活発化し、資源の枯渇状況が生まれていた。この状況の背景には、中国や日本などの東アジアの生薬市場の拡大や、17世紀末以降の華人による生産・流通網の発展があると考えられる(カンボジアのカルダモンについては近世期の資料が不足しているため不明)。この点については、華人の生産・流通網の伸張が顕著に見られる東南アジアと、貿易管理の厳格化により影響を最小化した日本、朝鮮との間で差異があることも明らかになった。②従来、薬用植物資源の流通研究が手薄であった19世紀後半~20世紀前半にかけても、植民地経済や近代的貿易システムが浸透する中、中国市場を背景とした大規模資源開発が進んでいた。また以上の共通点をふまえ、各地域社会の生産様式の変化や資源利用の文化が、これらの長期かつ広域の流通構造の変遷の中に、どのように位置づけられるかという問題を多角的に議論した。具体的には、近世日本における国産化・国産資源代替、朝鮮・ベトナムの栽培化、伝統医学の知識体系や地域社会の歴史記憶との関係、などである。その結果、近世から近代にかけてのグローバルな市場構造や知の様式の変容と各地の地域社会との関係を明らかにする上で、地域内の流通構造、在地有力者の役割、民俗知の様式などを軸にさらなる比較が必要であることが共有された。

公表実績

[2019年度]
(国際会議報告)
Okada Masashi. “Global aspects on Vietnamese Cinnamon: Historical Dialogues between Vietnam and Japan,” Area Studies – Vietnamese Studies: Research and Training orientation, Nov. 5-7, 2019, Nguy Nhu Kon Tum Hall, Hanoi(紀要刊行予定).
(出版)
岡田雅志・柳澤雅之(編)『アジアの薬用植物資源の生産・流通・利用の歴史に関する学際的研究―シナモンがつなぐベトナムと日本―』(CIRAS Discussion Paper 97)京都大学東南アジア地域研究研究所、2020年3月

研究成果公表計画, 今後の展開等

[2019年度]
今後は、国内外のフィールドワークの実施や、薬学分野の専門家の協力も得て品種の差異や改良の問題を扱うことにより、生物資源情報の地域間移動と流通・消費との関係を明らかにしてゆく予定である。その後、研究全体の成果として、東南アジア学会、日本熱帯農業学会など国内学会においてパネル報告を行う。さらに国内外の学術雑誌(『地域研究』、『東南アジア研究』、Journal of Social History of Medicineなどを想定)に特集号の形で論文を投稿することにより研究成果を国内外に広くアピールすること目指したい。

 

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