アジアとラテンアメリカの資源政策についての地域間比較研究

代表

岡田 勇(名古屋大学国際開発研究科・准教授)

共同研究員

岡田 勇(名古屋大学国際開発研究科・准教授)、村上 勇介(京都大学東南アジア地域研究研究所・教授)、ジュエルロード・ネムシン(ライデン大学政治学科・助教)、坂口 安紀(アジア経済研究所地域研究センター・主任調査研究員)

期間

2019年4月~2020年3月

目的

グローバル化が進んだ21世紀初頭、世界各国は異なった産業構造を発達させ、それにより異なった資源政策を必要としてきた。グローバル経済からみると、中国を始め製造業に牽引されて目覚ましい経済発展を遂げた東アジア・東南アジア諸国では国内の企業・消費者によるエネルギー需要が高まった一方で、エネルギーや金属資源、食糧といった一次産品の輸出が盛んになったラテンアメリカ諸国では資源採掘にまつわる外資への優遇と規制が政策争点となった。しかし、そうしたグローバル経済における役割分担に基づいた相違点がある一方で、アジアにもエネルギーや金属資源の重要な輸出国が存在し、ラテンアメリカでもエネルギー消費についての政策が修正を迫られたことは確かである。さらには、国営企業を中心とした産業運営もまた、両地域に共通する政策争点となってきた。
本研究の目的は、このような相違性と共通性を持つアジアとラテンアメリカのエネルギーおよび鉱物資源政策を比較し、21世紀初頭までに両地域で経験されてきた政策課題を明らかにすることにある。

研究実績状況

[2019年度]
2019年10月11日に国際セミナーを開催した。各自の研究照会発表者および発表タイトルは以下のとおり。共同研究員3名のほか、外部研究者3名がすべて英語による発表を行った。これまでこの分野での研究が活発ではなかったことを踏まえ、各自の研究内容を紹介し、共通・相違点について意見交換を行った。名古屋大学国際開発研究科の大学院生も多数参加し、翌12日には院生報告も行われた。
・ 岡田勇(名古屋大学) State, private, and cooperative miners: How in formalization evolved in Bolivian mining sector
・ Jewellord Nem Singh (Leiden University)State Ownership in Latin America’s Oil and Mining: Politics, Agency and Reform
・ 坂口安紀(アジア経済研究所)Swing of Oil Policies and Performance of the Oil Industry in Venezuela
・ Julie de los Reyes(京都大学東南アジア地域研究研究所)The rush for gold: Mineral investments and geography under finance
・ 森下明子(立命館大学)Resource Politics in decentralized Indonesia: the complex interaction between global, national and local actors
・ 久留島啓(東京大学)Recentralization through decentralization – national forest governance in Thailand

研究成果の概要

[2019年度]
上記の国際セミナーでは、ブラジル・ボリビア・ベネズエラ・インドネシア・タイなどを事例として、有意義な意見交換を行うことができた。以下のような論点が確認された。
・石油・鉱物資源部門は膨大な利潤を生みだすことから、それをめぐる権力闘争を生み出す。それはどの国でも見られるが、その発露の様態が異なる。
・資源部門への国家の参画は、途上国で20世紀半ばから後半に共通して見られた開発目標(Development-oriented goals)が採用されたか、もし採用された場合にはどのような言説によってその目標が正統化されたか、そしてどの程度目標が実際に遂行されたのかと密接な関係がある。開発目標の正統化と導入に成功した国では、国家が長期的かつ安定的に資源政策の鍵を握ることになった(ブラジル、メキシコ、インドネシア、マレーシアなど)
・資源部門をめぐる技術蓄積も重要であり、ブラジルのように国営企業や政策を通じてうまく蓄積した国とそうでない国がある。
・資源政策は、経路依存的でもある。様々なアクターが資源部門の中で既得権を獲得し、その後の政治過程で拒否権プレイヤーとして振る舞うため、大きな制度変化を妨げる。しかし、アイデアやイデオロギーを通じた動員によって大きな変化が起きることもある。
・グローバル資本にとって、資源生産国の何がコストやリスクになるかは知られていない。環境汚染などの単独インシデントとマクロ経済状況ではどちらがカントリー・リスクを高めるのか。

公表実績

[2019年度]
 公開国際ワークショップ “Resource Politics in Asia and Latin America”, Oct 11-12, 2019, Center for Southeast Asian Studies (CSEAS), Kyoto University
 岡田勇、「第4章 ボリビアの社会福祉―脆弱な経済と多民族社会における改革と再改革」宇佐見耕一編『新 世界の社会福祉 第10巻中南米』旬報社、2020年
 岡田勇、「モラレス政権における政治経済とサバイバルの論理」(日本ラテンアメリカ学会第40回大会、創価大学、2019年6月1日)
 Nem Singh, J. and J. Ovadia (2019) Developmental States beyond East Asia. London: CRC Press/Routledge.
 Macdonald, K. and J. Nem Singh (In Press) “Resource Governance and Norm Domestication in the Developing World”, Environmental Policy and Governance.
 Nem Singh, J. and A. Camba (In Press), “The Role of Domestic Policy Coalitions in Extractive Industries Governance: Disentangling the Politics of ‘Responsible Mining’ in the Philippines”, Environment Policy and Governance.
 坂口安紀(2019)「世界の主要産油国と日本の輸入原油(10回)ベネズエラ」『ペトロテック』42(4), 299-307.
 村上勇介 2019「『ポピュリズム』の政治学─ラテンアメリカ研究での議論と現代的位相」『比較経済体制研究』No. 25: 4-19
 村上勇介 2019「21世紀ラテンアメリカ 世紀における 自由民主義 の退行 ―ポスト新自由主義期の政治変動」(日本比較政治学会2019年度研究大会・自由企画1「世界の自由民主主義退行を考える ―中・東欧 とラテンアメリカの経験から」[日本学術会議共同企画]、筑波大学、2019年6月29日)

研究成果公表計画, 今後の展開等

[2019年度]
上記の国際セミナーの成果を踏まえて、理論的な成果をまとめる。その上で2020年10月以降にオランダで開催される国際シンポジウムにおいてパネル発表をし、外部研究者との意見交換を深める。これまでの各国研究や地域研究の枠を超えた知見をまとめ、国際ジャーナルに投稿したい。

 

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