ポストスハルト期におけるインドネシア華人の文化とアイデンティティー―ネットワークの観点からの考察

代表

黄 蘊(尚絅大学現代文化学部・准教授)

共同研究員

黄 蘊(尚絅大学現代文化学部・准教授)、舛谷 鋭(立教大学観光学部 交流文化学科・教授)、相沢 伸広(九州大学大学院地球社会統合科学府・准教授)、福岡 まどか(大阪大学人間科学研究科・教授)、松村 智雄(大阪大学言語文化研究科・講師)、山本 博之(京都大学東南アジア地域研究研究所・准教授)

期間

2019年4月~2020年3月

目的

ポストスハルト期のインドネシアにおいて華人文化の表象、実践にかかわる解禁政策に伴い、各地の華人コミュニティにおいて積極的に「自文化」を取り戻し、それを再生させるといった動きがみられる。しかし、30年あまりの同化政策が行われてきた中で、「華人」としての意識がたちまち高まり、エスニック文化の再興もいきなり実現されるものなのだろうか。現在の華人文化の再生には、あまり目立たないかたちでの何かの伏線が敷かれていないだろうか。本研究は、インドネシア華人とマレーシア、シンガポール、香港、中国本土などの地域の華人との歴史的交流、ネットワークの構築という観点から、ポストスハルト期におけるインドネシア華人の文化再生の実像を明らかにしていきたい。

研究実績状況

[2019年度]
本年度は2回国内研究会を実施し、メンバーで有意義な議論を行うことができた。以下、2回の研究会の実施状況を記する。
第1回研究会:6月22日(土)14:00-18:00
場所: 京都大学東南アジア地域研究研究所2階セミナー室(稲盛財団記念館213号室)
黄蘊 「共同研究の全体構想について」
舛谷鋭「インドネシア本国におけるインドネシア華人研究の復興ーICCISの活動を中心に」
福岡まどか 「アイデンティティの流動性を考える―華人系ジャワ人ダンサーの芸術活動を事例に」
質疑応答、全体討論
第2回研究会
日時: 10月20日(日) 14時-18時半
場所: 大阪大学共創イノベーション棟5階
全体テーマ:「冷戦「空白期」における華人の文化表象についての比較研究-インドネシア、タイ、フィリピンを中心に」
報告1
宮原暁(大阪大学)  「フィリピンにおける対華人政策と華人」
報告2
タンシンマンコン・パタッジット(早稲田大学)「タイにおける華人同化政策と華人の位置づけの変遷」
質疑応答、全体討論

研究成果の概要

[2019年度]
東南アジア地域のインドネシア、タイ、フィリピンにおいては共通して過去30年間の間に華人住民に対して同化政策ないし抑圧的な政策が実施されてきた。また、20世紀90年代以後、共通して一部の華人住民の間においてエスニック文化の再生という現象が観察されている。本共同研究はインドネシアの華人の問題を中心としながら、タイ、フィリピン研究者にもゲスト・スピーカーとして研究会で報告してもらい、広く東南アジア地域の華人の文化とアイデンティティの問題について有意義な議論と検討を行うことができた。
インドネシア、タイ、フィリピンにおいていずれも冷戦期における表面上の華人文化表象の「空白期」があり、また共通して実際ほかの近隣地域の華人との文化的な交流、連携などがあったことが認められる。この三つの地域において、それぞれどのような華人に対する同化政策ないし抑圧的な政策が行われ、華人住民たちはどのような対策を講じ、もしくは講じなかったのか、華人の文化表象・実践はどのようなかたちで行われてきたのか。これまでの研究会において、上記三カ国の事例研究、また比較研究につながる有意義な議論が展開され、インドネシア、タイ、フィリピンのこれまでの文化政策、国民統合政策を検討したのみならず、具体的な経済、教育などの分野の華人に関する動態について把握することもできた。
総じて、インドネシア華人の状況を中心としながらも、タイ、フィリピンに関する冷戦期や現在の当該の国の華人の状況について検討することもできた。本共同研究は、今後の研究の深化、継続につながる有意義かつ重要なステップであると位置付けることができる。

公表実績

[2019年度]
[出版]
福岡まどか 「他者表象から共同創作へー日本における東南アジアの芸術上演イベントの事例から」『東洋音楽研究』第84号 pp.1-22, 2019.8
舛谷鋭 1) 「観光文学研究分科会経過報告2018―観光文学研究の創成をめざして」『観光研究』30(2) 2019.3
2)「トラベルライティングを考える」 『立教大学観光学部紀要』21 , pp.11-18, 2019.3
3)「“観光を学ぶ”ということ」 『観光文化』241, pp.42-45, 2019.4

[公開シンポジウム、ワークショップ]
舛谷鋭 1) Malaysian Chinese foodways in Travel Writing, INTERNATIONAL CONFERENCE ON CHINESE FOOD CULTURE, Hanoi 2019.10
2) 研究ワークショップ 観光文学研究の地平―人文学が観光研究にもたらすもの 日本観光研究学会(名桜大学) 2019.12
3) 共同報告・雲里風小説:呼喚社会的理智与良知 東南アジア華僑・華人文学ワークショップ(大阪大学・立教大学) 2020.2.

研究成果公表計画, 今後の展開等

[2019年度]
本共同研究をベースとして、2019年11月に本共同研究のメンバーをコアメンバーとして、「冷戦下における東南アジア華人の文化表象「空白期」比較研究」と題する科学研究費補助金基盤Bに応募することができた。当科研が2020年度に採用されることになるなら、これまでの共同研究の継続として、冷戦下における東南アジア華人の文化表象という研究課題に引き続き取り組んでいきたいと考える。 

 

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