戦後復興プロセスの共有化  -沖縄と東ティモールの水源確保の在来知に関する認識、保存、活用について-

代表

嶋田 奈穂子(地球環境総合研究所・研究員)

共同研究員

阿部 健一(総合地球環境学研究所・教授)、卯田 卓矢(名桜大学国際学群・准教授)、エグニオ・レモス(NGO Permatil・代表)、嶋田 奈穂子(地球環境総合研究所・研究員)
、柳澤 雅之(京都大学東南アジア地域研究研究所・准教授)

期間

2019年4月~2020年3月

目的

2002年の独立に至るまでの紛争は、東ティモールの国土と人々の生活に有形無形にかかわらず壊滅的な打撃を与えた。さらに独立後の急激な生活環境の変化で、伝統文化は消えつつある。具体的には水源確保の技術やシステムといった「在来知」の消失であり、その結果、従来は通年で水を供給していた水源の枯渇など、水不足が深刻化している。
同様に熱帯・亜熱帯の島特有の水不足を課題とするのが、沖縄である。戦中戦後の打撃と混乱を経験している点でも、東ティモールと沖縄は極めて近い歴史的背景をもっている。しかし沖縄は、特に水源確保に関してはすでに戦後復興を果たしたといえる。一時はダム建設など大規模水源確保を進めたが、それに依存しすぎた結果再び水不足を経験し、多様な水源確保の必要性を認識した。同時に御嶽や拝所という形で水源を聖地化し保全する伝統知の重要性を改めて認識した。 一方、東ティモールにおいても小規模で多様な水源確保は急務である。協働研究者のエゴ・レモス氏は独立以前から国内の村を回って小規模水源の必要性を説き、今では複数の村で水源涵養のための浸透堰の設置と植林が行われているが、この取り組みと地域文化・在来知とのつながりが見えにくいことなどから、村人の自主的な継続性が担保されていないことが課題となっている。
以上のことから、本研究は水源に関する沖縄の復興プロセスを明らかにし、東ティモールと共有することで、東ティモールの在来知を活用した多様な水源確保に向けた理論を構築することを目的としている。

研究実績状況

[2019年度]
◆7月20日:キックオフミーティング
  参加者:阿部健一(地球研)、柳澤雅之(東南研)、卯田卓矢(名桜大学)、嶋田奈穂子(地球研)
  内容:沖縄本島と東ティモールにおける小規模水源利用と信仰に関する既存研究成果の確認、本プロジェクトの研究フレームの確認、沖縄本島現地調査のスケジュール、内容の打ち合わせ
◆12月21日~26日:沖縄本島現地調査
  参加者:阿部健一(地球研)、柳澤雅之(東南研)、卯田卓矢(名桜大学)、嶋田奈穂子(地球研)
  内容:沖縄本島における21か所の小規模水源利用と信仰の現状について調査。
◆1月14日~23日:東ティモール現地調査(他機関経費)
  参加者:阿部健一(地球研)、柳澤雅之(東南研)、Eugenio Lemos(NGO Permail)、嶋田奈穂子(地球研)
  内容:東ティモールにおける7か所の小規模水源利用と信仰の現状について調査。沖縄の小規模水源利用・信仰との比較検討。

研究成果の概要

[2019年度]
① 沖縄の水源利用についての戦後プロセス
 沖縄の大規模水源(ダム)開発は本土復帰(1972)直後から始まる。当時の水源別取水量の割合は、河川・地下水が85%、ダムが15%であった。今日までに10の多目的ダムが設置され、2018年の水源別取水量の割合は河川・地下水が18%、ダムが75%となっている。
 本プロジェクトで調査対象とする小規模水源は湧水で、把握されている数は939である。琉球石灰岩にしみ込んだ水が、水を通さない島尻層群の上を流れて地表に出ている。今日、集水域の開発等により水量が減少しており、同時に日常的な利用はほとんどなく、一部は公園化している。一方で、ほぼすべての小規模水源には儀礼の場(拝所・御嶽)が設けられており、現在も生きた信仰対象となっている。沖縄本島の小規模水源は、生活用水の供給源から象徴的な儀礼の場と移り変わってきたことがわかる。
② 沖縄と東ティモールの小規模水源利用・信仰の比較
 一方、隆起サンゴ礁からなる東ティモールにおいて、湧水の仕組みは沖縄と同様である。水道施設がないため、湧水のある地域では生活用水の100%を頼っている。また、沖縄と同様、ほぼすべての湧水地には儀礼の場が設けられており、信仰対象ともなっている。
③ ①を踏まえた東ティモールにおける沖縄の小規模水源利用についての地域知の共有
 水道施設の整わない東ティモールにおける湧水地の維持は非常に重要で、沖縄の戦後プロセスに対する関心は高い。沖縄の戦後プロセスをわかりやすい形で可視化し、東ティモールの地域住民や学校で現状や地域知を共有する方策を検討中である。

公表実績

[2019年度]
なし

研究成果公表計画, 今後の展開等

[2019年度]

①成果公表計画
 小規模水源の利用・信仰に関して、沖縄の戦後プロセスを東ティモールの地域住民・学校教育現場と共有できるための媒体(画像を多用した教材資料など)を検討中
②今後の展開
 2020年度科研・学術変革領域研究Aに申請予定の水に関する研究プロジェクトにおいて、計画研究の1つとして本プロジェクトの継続を検討している。

 

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